昨年(2016年)、ノーベル経済学賞のときにニコニコ動画に呼ばれ、予想ごっこと、受賞後のコメントを田中秀臣と、反アベノミクスのあまりにお手軽な本を書いている小幡績、そして電話参加の安田洋佑といっしょにやりましたよ。去年は、ハート&ホルストロームで、契約理論というマニアックな分野だったので、正直いってぼくは(そしてその他の来場者)はあまりコメントできず、電話での安田氏の独壇場みたいになったっけ。
さて今年もまたやってきましたノーベル賞シーズン。今年もまた、ニコ動で同じくノーベル経済学賞野次馬大会を開くとのこと、それとあわせて、ここでも山形の予想をアップしておいてくれ、とのこと(それも出演料の一部ということで)。
さてことしは契約理論とかはもうキャッシュがクリアされた。ゲーム理論とかもしばらく前にあった。だからもう少しわかりやすい分野にくるんじゃないか……という裏をかいて、まったく知らないスーパー計量経済学とかにいったりする可能性もあるけど。そうした経済学の手法面だと、マンスキーが非常に有望視されているけれど、正直言ってぼくはよくわかっていない。もう少しオーソドックスな経済学分野で考えることにしましょう。
まず今年他界した、またはそろそろ時間切れになりそうな残念な人々。
まず受賞者予想を挙げる前に、候補と言われつつ今年惜しくも他界した人々、さらに分野の順番からいってむずかしく、年齢的にも今後チャンスはないんじゃないか、という人々。ピケティの師匠格であるトニー・アトキンソンは、二年前にアンガス・ディートンといっしょにあげておくべきだったと思う。2017年1月1日に他界。またやたらに多才なウィリアム・ボーモルは、もう90代でさっさとあげないと先がないと言われていたけれど、今年の5月に大往生。惜しい。
まだ存命中ながら、ハロルド・デムゼッツはすでに90歳近い。文句なしの重鎮ながら、産業組織論っぽいのが主な業績でティロールなどが取ってしまったからもう見込みはないんじゃないか。
分野としてはそろそろ成長理論か?
分野として、そろそろくると言われる筆頭が成長理論。フィリップ・アギオンとピーター・ホーウィットは、内的成長理論の雄で、イノベーションとかが注目されている現在はいいタイミングかも。この分野だと、ポール・ローマーははずせないところで、実は昨年、かれがノーベル賞を取ったというウェブサイトがNYUで公開されちゃって、あわてて取り消されたほど。
もう一つこの分野での楽しみは、古い成長理論の雄である、とっても口の悪いロバート・ソロー。いや、もちろんソロー自身はとっくにノーベル賞をもらっているんだけど、彼はこの内的成長理論を嫌っているので、むちゃくちゃ悪口言ってくれるのが楽しみな。だからかれが存命中にこの分野が受賞してほしいなあ。
ソローが新成長理論を罵倒している様子はかれの「成長理論」にもあるし、またこんな本も(勝手に訳した)ある。
ロバート・ソロー『「やってみて学習」から学習:経済成長にとっての教訓』
環境経済学はくるだろうか?
もう一つありそうなのが、環境経済学。もしこの分野がきたら、温暖化の経済モデルの定番DICEを開発し、環境経済学の分野の大物であるノードハウスは筆頭。その他いろいろいるけれど、あとはマーティン・ワイツマンとか? ただし山形はかれの著書を訳しているのでこれは希望的観測も大きい。この分野もいつかくるはずと言われつつ、はや何年。一方で、経済学全体に波及する成果を挙げている分野かといわれると、口ごもることもある。ただし今年はトランプのパリ協定離脱へのあてつけの意味もこめて、くるかもしれない。
リーマンショックのほとぼりが冷めた金融分野?
金融経済学は、リーマンショックでミソをつけて当分ないんじゃないかという説が強かったけれど、そろそろほとぼりもさめたし、FRBも当時買い込んだ資産の処分に向かっているし、その後の様々な知見の高まりから評価してもいいんじゃないかと思う。するとまあ、テイラー・ルールのジョン・テイラーはきてもいいかなー。その次の世代でウッドフォード……うーん、どうかな。かれらがくるなら、そろそろFRB議長を退任して時間がたったベン・バーナンキも、そろそろあり得るかもしれない。バーナンキと、それをクソミソに批判していたテイラーとのあわせ技、なんていうのはノーベル賞委員会としてやりたがるかも。テイラーは次期FRB議長という下馬評も一部にはあり、おもしろい組み合わせになる。逆にあまり政治色がついてしまうと取りにくくなるかもしれないけど……
フィッシャーのその弟子筋マクロ
マクロっぽい人たちとして、オリヴィエ・ブランシャールとか、サマーズとかがいる。そしてこの人たちや、上のバーナンキの先生がスタンリー・フィッシャー。フィッシャーはイスラエル中銀の親玉もやってFRBの要職もついこないだ引退したし、そろそろリタイアだから金融方面でもらう……のはつらいか。でもフッシャー&ブランシャールとかあってもいいんじゃないかな。ただしブランシャールの主要業績ってなんですか、とかフィッシャーの具体的な研究ってなんですか、と尋ねられると、いま一つよくわかっていないんだけど。あとはここに、ずっと日本人&ノン白人候補として挙がり続けている清滝信宏も入れていいかも。でもサマーズや清滝は、やはり今年でなくても、という感じはある。まだ相対的に若いし。
落ち穂拾いで生産性研究?
地味になるけれど、生産性研究の分野では、デール・ジョルゲンソンやロバート・ゴードンがすでにかなり高齢だし重要な貢献をしてきたし、もらっていいんじゃないか。ただ今年くるべき積極的な理由もない感じ。
ジョルゲンソンと言えば山形的にはお約束:
Ministry - "Just One Fix" (Official Music Video)
というわけでまとめてみましょう:
で、結論としては……
もちろん、あれもある、これもあるというのはいくらでもできる。でもトトカルチョとしてやるなら……
こんなあたりでいかが? 穴馬があんまり穴になってないけど。当たるも八卦、当たらぬも八卦。
しかしこうして考えると、清滝以外の非「ファラン男性」がまったくいない。うーん、偏りが過ぎるなあ。でも実際、あまり見当たらないのだ。意表をついてクリスティーナ・ローマー……ってこともないだろうし(デヴィッド・ローマーと夫婦受賞! とかいうのはウケるだろうが、だからこそないだろう)。アセモグルあたりがくるまで待つしかないのか……
というわけで、10月9日の放送を刮目して待て!
追記:
田中秀臣下馬評が出た! 山形のいい加減な印象論に比べてずっとシステマチック。ディキシットは確かに見落としてたなあ。
というわけで、いまの段階では両者の共通集合になっているジョルゲンソンが最有力ってことですか。
また、タイラー・コーエンの下馬評も出た。ぼくのと結構重なっている。三人すべてで共通するジョルゲンソンあたりが最有力、二人で共通しているのが結構有望、というところでしょうかねー。
タイラー・コーエン「今年のノーベル経済学賞の受賞者は誰?」 — 経済学101
さらに、キャス・サンスティーンが「現実世界へのインパクトでノーベル経済学賞が決まるなら」という記事を書いている。ヴィスクーシの名前が出てくるのは、うなずける面もあり、またサンスティーンらしくもある。
追記:そして受賞者はリチャード・セイラー!
なんか行動経済学はカーネマンが取ってしまったので、ないんじゃないかという気がしていたのでノーマークでしたが、カーネマンが取ったのは2002年か。ずいぶん昔なんだねー。かれの『逆襲の行動経済学』は、虐げられていた時代の恨み節全開で楽しゅうございますよ。
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山形浩生の「経済のトリセツ」 by 山形浩生 Hiroo Yamagata is licensed under a Creative Commons 表示 - 継承 3.0 非移植 License.