- 作者: レベッカコスタ,Rebecca Costa,藤井留美
- 出版社/メーカー: 原書房
- 発売日: 2012/03
- メディア: 単行本
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うーん、うーん、うーん、なんか頭痛がすごく痛いよう。
いろんな文明がなぜ亡びたかという本はいっぱいあって、どれも一長一短なうえ、そこから共通点を引き出そうとすると、どれもこれも様々なので何ともいえない。無理にやると、すべて気候変動がいけないのだというフェイガンや、すべて環境破壊がいけないというダイアモンドみたいに、「おまえ、数ある文明の中でなぜわざわざそれを選んだの?」という選択バイアスかかりまくりの偏向図書になってしまう。
でも本書は、進化論とか脳科学をもとにそれをドーンと一発解明とのことで、なんとも剛気なおばさんじゃねえか、と期待していた一方で、朝日文化部の人は「かなりトンデモなことが書いてある」と言っていたこともあるし、また脳科学で文明破壊を解明という話自体がアレでしょう。というわけでかなり警戒もしていたんだが……
で、結局読んで見たが、確かにまあ、あらゆる文明に共通する滅亡原因の抽出には成功している。うん。そして、脳科学や進化論に基づきそれを説明してはいる。が、うーん困った本だ。
なぜ文明は亡びるか? あらゆる文明に共通する滅亡原因とは何か? 答えは…… wait for it… wait for it…
人間が対策を採れなかったことだ!
がーん!! おおおおおおおおおおおおおおおおおおっっっっっっっっ!
すばらしい、なんでぼくたちはいままでそんなことに気がつかなかったんだろう!!
でね、でね、でね、なんで対策を採れないのか、というところに脳科学やら進化論やらが効いてくるわけよ! 人間の脳は、問題をつい先送りにしてしまったり、なんでも反対だけして満足しちゃったり、付和雷同で何もしなかったり、複雑すぎることを脳が処理しきれなかったり、きちんと考え抜くより単純な(でもまちがった)話にとびついちゃったり、悪者探しに夢中になったり、なんでも経済重視にしちゃったり、これまでの延長でしかモノを考えなかったり、システム全体を改善せずに部分改良ばかりに血道をあげたりとかするわけでさあね。これは脳の科学や進化論でもちゃあんと説明されてますがな。
だから、問題があって、ナントカしなくちゃと思っているのに、きちんと行動に移せず対策を採れず、それで亡びちゃうんだよ!
だからみんな、思い切ってどーんとシステムを変えるように、叡智を活用しようじゃないか。枠に捕らわれない思考をして、バカな反対ばかりしてないでポジティブな提案して、そうすれば文明崩壊は避けられるよ!
いやはや、看板に偽りはない本ではありまして、その意味ではすごい。そして私は声を大にして言いたい!
おまえ、いっぺん氏ね!
……という本でございました。訳者あとがきも、なんだかしゃべる魔法瓶にずいぶんお怒りだが、それって何か重要なことですのん?
付記
アマゾンレビューでは、通常は絶対的に信頼できるいとみみず氏が5つ星でほめているが、ほめすぎじゃないですか? あと、一晩たって冷静になってみると、やはり邦題のつけかたも大きいよなあ。こういう邦題なら期待しちゃうじゃないですか。原題は(の副題)は「thinking our way out of extinction」。文明どころか、種としての滅亡を知能活用で避けようという本なので、まあ邦題でもおとなしいとはいえるんだが。
でも実態は、脳科学&進化風味の現代世相批判エッセイ集くらいのものと言うべき代物。たとえば、なぜ企業がダメになるのか、というテーマではこの手の本はたくさんある。思考が硬直、前例主義、成功にとらわれすぎ、失敗に向き合わず前向きの解決策を出さない等々。それを文明や生物種レベルまで拡張したのがオリジナリティといえばオリジナリティ。今後目指すべき思考法のまとめなんかは、実はそんなに悪くない。なので、邦題も「進化で行こう! 文明行き詰まりを突破する脳科学思考法」とかなんとか(だせーな、これじゃ売れないな)、それ相応にしておいていただけると、「強引さはあるが興味深い視点を持った軽快な本」とでも軽く流しておけるのに……
山形浩生の「経済のトリセツ」 by 山形浩生 Hiroo Yamagata is licensed under a Creative Commons 表示 - 継承 3.0 非移植 License.