石川『超心理学』:研究するだけ無駄そうにしか思えない。

超心理学――封印された超常現象の科学

超心理学――封印された超常現象の科学

テレパシーとか透視とかテレキネシスとか、いろいろ実験が重ねられて、なんかあるかもしれないような、とはいえビリーバーでもないけど頭から否定してかかるのはよくない、という本。はあ、そうですか。

著者は真面目にあれこれライン実験とかガンツフェルトなんとかとかフォローして、統計的に有意な結果が出ている、という。でも、社会心理的に複雑な要因があれこれとやらで、うまく行くときはいってるみたいだが、いかないときはいかなくて、という。まあそこまではいいよ。でも、結局いまの物理や科学の通念には反する話だから、なかなか研究する人も出ないのが困りもので、だからまともな研究者が数百人しかいなくて、という。おやおや、それはかわいそうに。でもこうした個別実験の不安定さはは量子物理の観測問題のせいかもしれず、だから物理学の進歩で解明されるかも……とか言い出すんだけど、おいおい、それは待ってくれよう。真面目にやってるつもりなら、こんなわかってもいないことを得々と言わないでほしいのよね。

懐疑論者に対しては、限られた事例だけ見て否定しないでくれ、というんだけれど、それを言うなら限られた事例だけで肯定するのもアレでしょう。そしてわかったからといってすごくおもしろいことができるわけでもなさそうだし。研究者が出ないのは、既存物理学と対立するから、ではないと思う。わけのわからん常温核融合とかは、研究者が集まるじゃん。少なくとも今の方向ではまったく成果が期待できないくらい、まともな学者ならわかるからだと思うよ。ちなみに、ミーム/心脳問題ライターとして高名なスーザン・ブラックモアは、実は超心理学で博士号を取ったこの分野バリバリの研究者だけれど、いつまでやっても何も成果が出ないのにうんざりして、あるとき分野ごと否定するに至り、心脳問題とか脳科学のほうに関心を移した。本書を読んでいると、それが正しい道のような気がするのだ。

本書でも、なぜこの著者は、超心理学を解明するのに、物理学の発展に期待するわけ? 本書を読む限り、超心理学自体を観察しようとしても、結局いろいろ試行をしたら統計的に有利なものもありました、程度の話にしかならないし、それ以上はまったく何の成果も期待できそうにないじゃないか。それを判断できない時点で、まず研究者としてのセンスはないと思う。それ以上分け入ろうとしたら、物理学なんかじゃなくて、意識とか精神とか心とか、その「超」のつかないものから明らかにしないと話が進まないんじゃないの? そして意識や心脳問題もまだまだむずかしそうだし、そっちで何か成果があがるかどうかもわからん以上、超心理学のほうまで話が進むには何世紀かかるやら。著者は、(世界に数百人しかいない)超心理学の研究の火を消すまじ、と意気込むけど、消せば? 脳や意識がモデル化できたら、そのおまけで超心理学もなんか出るかもしれないから、それまでもっとまともなことやってたら? と素人としては思うわけでございます。まして新聞の書評に採り上げたい本ではないなあ。

(追記:上に出るカバー写真のストライプがチカチカして、いやー!!)

さらに追記:
ちょっとググってみたら、超心理学会というのがあるんだが……そこで予知とかの公開実験なるものをやっているんだけど、なんだか恣意性のかたまりというかなんというか。こんなお地蔵さんの写真と送電鉄塔の写真とで、なにやらどうにでも解釈できそうなモガモガした書き取りとが、一致したよい予知ってことにされちゃうのお??? こんなので統計的に有意とか騒がれましてもねえ。というわけで信用がた落ち。この程度かよ。



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