- 作者: 冨田信之
- 出版社/メーカー: 東京大学出版会
- 発売日: 2012/08/31
- メディア: 単行本
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ロシアの宇宙技術は、テーマとしてはマニアックながら、アメリカとは別の技術的な系譜として興味深いもの。本書はその歴史を、帝政ロシア(いやそれ以前)からフルシチョフ失脚による最盛期の終わりまで、ロシア語文献を駆使しつつ詳細に記述。英語では標準文献のオーバーグ『軌道の赤い星』も邦訳がない現在の日本では、この分野でほとんど唯一無二の本ではないか。一度回収され、満を持しての刊行はうれしい。
神話化しているロケットの先駆者ツィオルコフスキーの業績などもきちんと相対化し、技術と政治と人間ドラマのからみあいの書きぶりも見事。コロリョフも限界はありましたか……。
いずれ本書の先のミールや他国への技術流出の歴史、さらに巻末で触れたソロヴィヨフ哲学の影響などについてもぜひまとめていただきたい。ロシアの宇宙技術にとどまらない、技術伝搬と発達の歴史全般に興味がある方にもおすすめだ。(9/9掲載、朝日新聞ページ)
コメント
いやあ、これは最初、2月あたりだったかに出て、即座に書評書いたら「あー、回収されちったんで掲載延期!」と言われたのですよ。その回収の理由が、ロシア語の校正が不十分というもので、だれも気がつくまいに、と思った一方で、増刷されない可能性も高いしことできちんとしておかないと、という著者と出版社の悲壮な決意も感じられますです。しかし、ほんの1ヶ月くらいで改訂版が出るかと思ったら、半年かかるとは! びっくりしました。でも出てくれてよかったよかった。
最後に書いた、ロシア技術の流出問題というのは結構重要で、インド、中国、韓国あたりかなり流れているし、世界の技術分布を決定的に変えたと思う。あれがなければ中国はあと30年くらいは宇宙ロケットなんか上がらなかっただろうし。
なお、はてぶ/ツイッターのコメントで、ソロヴィヨフ=フョードロフだと述べている人がいたが、別人。ただフョードロフは、ソロヴィヨフに影響は与えている。この本の表紙を見ると、別扱いで並んでいるでしょう:
- 作者: スヴェトラーナセミョーノヴァ,ガーチェヴァ,西中村浩
- 出版社/メーカー: せりか書房
- 発売日: 1997/01
- メディア: 単行本
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この本もおもしろそうだから読んでみよう。
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