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ワグナー『未来のイノベーターはどう育つのか』:好奇心を引き出し自由に変わり者であることを恐れず……つまらん。

今後アメリカ、いや世界経済の発展は、いかにイノベーターを養成できるかにかかっている、とのこと。そうかもしれませんねえ。で、どうやったらイノベーターを養成できるのか?

著者は、いろんなイノベーターや学者にインタビューしてその秘訣を抽出しました、というんだけれど、基本的にはいい学校に入れてなんとかメソッドで型にはまった教育をさせるのではなく、自由に自分の可能性を追求させ、好奇心を引き出すような環境をつくり、努力を支援して権威主義的ではない教育を行い、あれこれ口を出したりせず詰め込みや押しつけは避け、いくらでも失敗していいことをわからせ、変わり者であることを恐れず……

つまらん。

著者が何をしたかといえば、あちこちまわって、このやり方で成功したイノベーターとか傑出した学生とかの話をきいて「ほら、やっぱりそうでしょう」と言う。でも、これやるとみんなすごいイノベーターになるの? もしそうでないなら、これやって成功できなかった人はどうなるの?

ここに挙がっている事例の子供たちの多くはMITの何とか養成講座で入賞した人とか、どこぞの若者イノベーター発掘プログラムに出てきた人とかがおおいんだけれど、見ているとむしろ、そういうプログラムの好みとか選考基準にあわせて自分を型にはめてきた、「世間的にイノベーターと思われる人」のパターンにはまっただけの、すっごく貧相な子供たちに思える。この子たちやその親は、この手の本を書く人や選考委員がどういうことを言えば喜ぶか承知していて、その通りのことを言っている。この著者をはじめ、イノベーターは型にはまらない人だと思っている人たちに向けて、自分がいかに型にはまらず、世界の貧困とか公害とかの重要な問題に早期から目をつけ、それにまっしぐらで、というのをアピールしようとしている。読んでいて、ぼくはそれがたまらなく鼻についたし、そしてそれを見抜けず額面通りに受け取ってしまっている著者(いやもうほとんど共犯関係なんだけど)とか、耐えがたい感じ。

だいたい、戦後期の生産性がバシバシ上がって世界的にイノベーションが広まっていた時期って、みんなこんな教育だったんですか? また親って実はそんなに影響力ないというのが実情らしいけれど、それとの整合性は? 親が効くにしても、親が何をするかよりは、何者であるかが重要らしいけれど、それはどうよ?

子育ての大誤解―子どもの性格を決定するものは何か

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ヤバい経済学 [増補改訂版]

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そういうの無視して、都合のいいとこだけつなぎあわせた、アメリカ系のビジネス書やマネジメント系本にありがちな代物。読んで何かわかったような顔をするのはいいけど(アマゾンのレビューはそんなのばっかね)、実用性があるかどうかは疑問。ある程度の型にはめて、自由闊達がものにならなかったときのバックアップ体制も用意したほうが、とゴチエイがどっかに書いていたけど、その通りだと思う。




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山形浩生の「経済のトリセツ」 by 山形浩生 Hiroo Yamagata is licensed under a Creative Commons 表示 - 継承 3.0 非移植 License.