『人民元の興亡』:人民元をネタにした単なるゴシップ本。

うーん、せっかくもらった本なのであまり悪く言いたくはないんだが、もう少し何とかならなかったんだろうか。いや、おもしろいところはあるんだが、それがゴシップでしかない。本来、つかみでしかない部分だ。でも本書はそれで終わり。本当に重要な話に踏み込まない。

まず、「興亡」というので、ちょっとびっくりするよね。ぼくは人民元が滅びたとか、そんな兆候があるという話は聞いたことがなかったもので。では人民元が滅びる話がどこから出てくるんだろうか? それがねえ……

ないんだよ、これが。何も、まったく。何一つ。

強いて言うなら、最後ビットコインの話がちょっと出てくるくらい? あとはスマホ決済で紙幣が使われないとかだけど、それは人民元がなくなる話じゃないよね。

まあ「亡」がないのは勇み足だし、タイトルはマーケティング上の配慮で針小棒大になることもあるだろう。ではそれ以外の部分は? 「興」の部分は?

これまた、実にしょぼい。基本、かつて軍閥とかいろんな地方ごとに発行していたお金が人民元として統一されたという通り一遍の歴史のおさらいを経て、冒頭部分で毛沢東人民元紙幣に自分の顔を使わせなかったというエピソードを並べる。で、その理由は? 多少の時系列めいた話に、いろんな人の雑談めいた憶測が並ぶ。でも結局なにか分析があるわけではなく、いろんな人に話をききました、いろんなところに行ってみました、というだけで、その旅行記を並べておしまい。

毛沢東とお金の話なら、もっと重要でおもしろネタはあるはずなんだけどなー。毛はお金そのものに不信感を持っていて、その廃止を真面目に考えていたこともあったはずなんだ。ポルポトたちが政権をとってカンボジアを地獄に陥れていたとき、連中は毛沢東に会いにいくんだけれど、そのときに毛沢東が「おれたちですらできなかったお金の廃止をやるとは!」と驚愕したという話がある。紙幣から、毛沢東のお金に対する見方を掘り下げ、それが中共の金融政策をどう左右したかを見ることもできるはずなんだけれど、そういった本質的な話は一切なし。

そしてそのしょぼい「興」と、中身のない「亡」の間はなにがあるかというと、目立つエピソードをもとにしたゴシップだけ。戦前の日本が中国で円を普及させようとしたが苦労したし、日本負けちゃってご破算となりました、という話とか、最終的に日本が敗戦した以上、どうでもいいエピソードでしかないと思うんだがそれを延々とのべたてる。そして、そこから日本の円と人民元とのつながりを述べようとして、三重野以来のバブル戦犯日銀総裁たちが中国の中央銀行とそれなりにつきあいが深かったことを述べる。でも、それがすべて個人レベルのつきあいがありました、という話の域をでない。日銀マンのだれかがウォンというイヌを飼ってました? それがなんだっての? まして著者がその犬に会ったことがある? そんなことに何の意味があるの? 著者はちなみに、それをその日銀マンが中国にいかに親しみを抱いていたかという徴であるかのように述べているけど、これって採り方によってはかなり見下した相手を卑しめる話にも十分読めるよね。「ウォン、お手!」とか言うわけ? 著者は、そんなことはまったく気がついていないみたいだけど。

たとえばそこで、かれらの影響で中国がやたらに緊縮的な金融政策を採るようになりました、というような話であれば、そういう交際について紹介する意味を持つだろう。でも、そういうのはまったくない。単に、つきあいがありました、というだけ。ちなみに白川について、インタゲ話に翻弄されたというんだけど、どこがぁ? かれがもっと翻弄されてくれたら日本経済もずいぶん変わっていたと思うが、かたくなに緊縮を保っただけ。

あとは、世銀と中国のつきあいが~というんだが、中国でかいし融資先としてでかくなるのは当然でしょう。でも世銀の中国融資はチベット問題をめぐって波乱もあるし、世銀の融資方針が変わるにつれて中国への融資内容も変わったはずだけど……そんな話もなし。青木昌彦スティグリッツが中国にいっぱい来ていたというんだけど、かれらは中国に何を指導したの? それで中国はどう変わった? 何もなし。

あとはチェンマイイニシアティブの話とか、アジア通貨危機人民元切り下げ圧力の話、そのときのAMF構想の話とか。そしてAIIBの話とそれに伴うADBの話。いずれも何も本質的な話がない。そもそも、人民元の運用ってどういう考え方でこれまで行われているのか、管理通貨としてどんな考え方で実施されてるの? そういうきちんとした記述を行った部分なし。

たとえばIMFのSDRに導入されたとき、透明性の低い管理通貨を大量に混ぜていいんですかという批判がずっとあった。まずそこで言われている批判とは何なのか? 人民元ってどういう管理がされているの? そういう具体的な話はほとんどなし。さらに、SDRへの組み込みでラガルドがIMFの親玉になったのが大きな契機だったという話をする。ほほう、するとラガルドがなにやら中国の懐柔を受けていたのか? 何か特別なつながりがあったの? あるいは前任のストロース=カーンと大きな考え方のちがいがあったとか? ところがそんな話は一切なし。出てくるのはラガルドがスマートでタカラジェンヌみたいでとかいう話だけ。それならラガルド出てきても意味ないじゃん。契機になってないじゃん。

すべてそんな具合。何か大きなトピックが出てくる。そしてその周辺にいる人々のゴシップが並べられるんだけれど、そのゴシップが大きなエピソードの展開にどう関わったかはまったく書かれず、著者個人がその人に会ってインタビューしたときに、着こなしがーとか宴会の食事がー、入り口の置物がー、とかホントどうでもいい話になって、その人のインタビューも通り一遍の公式声明以上のことは何も聞き出せず、最後に「通貨はその国の基本である」とかなんとか、何のまとめにもなっていない漠然とした話がでておしまい。

結局、著者がいろんな人に会ったのはわかった。でも会ったことで何が明らかになったのかといえば……何も。アマゾンのレビューを見るとずいぶんほめられている。多くの読者はバカで、こういうゴシップをありがたく拝聴してなんかわかったつもりになるので、それはそれで仕方ないんだが、正直いってこれだけの人にインタビューしたんなら、もう少し何か本質的なことが一つでも解明できるはずだと思うんだが。ぼくは読んで、かなりの徒労感しかおぼえなかった。すみません、せっかくもらったのに。

付記:

上のはちょっと厳しすぎるかな、という気もしないでもない。多くの人は、AIIBって聞いたことがあっても、なんだか知らないし、また詳しく知りたいとも思っていない。AMFについてだって、きちんと理解したいわけではない。だからそういう読者向けに、通りいっぺんの解説をして、それにちょっとアメリカや日本や中国の政治的陰謀めいた話を、ちょっとえらそうな人のインタビューをもとに憶測っぽくからめておけば、なんか多くの人はわかったような気分になったうえ、「実はあれはアメリカの陰謀で〜」みたいな知ったかぶりもできるようになる。アマゾンのレビューやツイッターで誉めている人たちは、そういうのが嬉しくてたまらないみたいだし、その意味で商品としてはなりたっているとはいえるかもしれない。新聞の連載囲みコラムなんてほとんどがそんなもんだし、それに忠実といえばそれまで。いろいろ聞いた結果として何がわかったか明確にしないのも、新聞らしい日和見&責任逃れではある。

が、それにしてもだ。たとえばADBの本部が東京にならなかったのだって、政治的な策謀をあれこれ勘ぐってみせるのも結構だけど、東京ではADBの業務に必要な英語のしゃべれる一般スタッフがまったく調達できないというものすごい現実的な理由が大きかった、という話もよく聞くよ?  他の話だって、どういう現実的な要請から中国は各種の手だてを実施してるのか、という視点がないと、ほんと憶測と公式発表だけで何も深みがない。この手の話で、一つのバロメーターになる言葉が「基軸通貨」ってやつで、これを意味ありげに使ってる人はたいがい何もわかってないんだけど、この本はまさにその典型でもある。基軸通貨ってなに?食えるの?これでも読んでね。クルーグマンは「基軸通貨」なんていうまぬけな言葉は使わないけどさ。

Who's Afraid of the Euro?: Japanese

それに人民元の話をするんなら、国際的な要因の話だけでなく、国内要因の話がいるでしょ。通貨価値を維持するのは、為替レートの話とインフレの話と両方あるし。国内のバブルとかインフラ整備とか国営企業問題とかさ、そういうのと為替レートや国際化の話とはどう関連してるのかとか、まったくそういう視点もない。注目する現象は本当に通りいっぺん。そしてそれを何らかの枠組みでとらえなおす試みも皆無。一部の話は、いまの中国が最適通貨圏になってるか、という話に還元できると思うんだけど、それについての評価もなくもぞもぞしたインタビューのキャッチフレーズ出しておしまい。山形は、この分野で必要以上に耳年増だから、というのもあるだろう。でも、別にぼくにとって新しい知見がなくても、それを体系だってきちんと述べるのだって、こういう本の役目だと思うんだけどね。


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こんなろくでもない守護霊に憑依されても、あんな立派な学者になれるんですね!

一応さあ、ピケティの関連本は一通りレビューしたいなとは思っててさあ、まあこの本もあることは知っていたんだけど、わざわざ定価で買って印税を一銭でも上納するなんて、霊的風紀維持法に違反するような気がするじゃない? だから古本で安く出回るまで我慢して、やっとまあオレ的に許容範囲の価格で買いましたよ。

でさあ、読みましたよ。トホホホ。

で……これどうしろと言うんじゃい! もう、特に霊言がはじまると頭痛がズキズキで、雰囲気としていちばん近いグラフィック表現を探すとすればこんなところか:

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Go go go go gogogo, run away from the Sharknado!

とにかくこの守護霊さん、まあ卑しいというか何と言うか、出てきて真っ先に言うのは、「(ピケティ本が売れて) 儲かって嬉しい」。

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んでもって、付加価値って何だかご存じない(というかその言葉自体を知らない)し、経済学では人間は努力とか能力とかまったく関係ないとされているんだって。天国のベッカー先生、ちょっとピケティの守護霊しばいてやってくれませんかー?

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しかし、ちょっと感動するのは、この守護霊の本当にどうしようもないバカな議論に対して、取り巻き信者どもが一応まともに反論してそれをいさめているというあたり。

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里村氏、ラリってるとしか思えない守護霊に、明らかに苛立ってます。そしてあげくの果てに、「あんた、企業家とか事業家とかの意味わかってねーだろ!」と守護霊様を一蹴。綾織さん、エルカンターレ様相手にすごい!

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そしてもう、守護霊は自分とピケティ本人の区別が往々にしてついてないし、「私の本が現代の聖書だ」とか言ってるんだが、あんた本書いてませんから!

正直、この綾織&里村ペア、冒頭や最後のまとめも結構しょぼいけど、それでもよく耐えてます。しかも途中でいたるところ「(苦笑)」だらけで、守護霊ほんと、まったくいいとこなし。小池百合子みたいにもごもご無内容名一般論を言ってるだけで、ピケティ本見てないのが見え見えで、多少何かもっともらしいこと言ったら里村&綾織に怒られて無内容なのがすぐわかってしまうし。

結論:こんなバカで怠惰な守護霊しかついていなくても、ちゃんと研究者として活躍できることがよくわかりました。つまりは守護霊なんか何の関係もないということが明確に出ているという意味では、有用といえなくもない本だと思います。

追記:

とはいえ、まあ動きははやいし目先が利くのはみとめるわー。これ読んで見たーい(すごく安くなったら)。


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旅に出る時ほほえみを

旅に出る時ほほえみを (1978年) (サンリオSF文庫)

旅に出る時ほほえみを (1978年) (サンリオSF文庫)

もう30年近く前に買ってずーっと本棚に寝ていたのを、引っ越しを機に始めて全部読んだ。昔、冒頭だけ読んでもっと無害なおとぎ話と思っていたけれど、どうしてどうして。よくソ連時代にこんなものを書いて発表できたものだ。ナボコフ『ベンドシニスター』と同じ話だけれど、こちらのほうができがいいかもしれない。


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『去年を待ちながら』

たぶん無駄とは知りつつ、インターネットの無限の叡智におすがりしてみるテスト:

P・K・ディック『去年を待ちながら』という佳品がある。

去年を待ちながら (創元推理文庫)

去年を待ちながら (創元推理文庫)

さて、この邦訳の献辞はナンシー・ハケット宛てになっている。ぼくが持っている英語版もそうなっている。

ところが、このキンドル版と別のペーパーバックだと、献辞がドナルド・ウォルハイム宛てになっている。

Now Wait for Last Year

Now Wait for Last Year

さて、これはディックがどこかで変えたのか?たとえばイギリス版と米国版でちがうということなのか?それともだれかがどっかでまちがえたのか?

ジェイコブズの教訓:強いアマチュアと専門家の共闘とは

ちょうど一年ほど前に、別冊『環』がジェイン・ジェイコブズの特集本を作るというので、寄稿した。

ジェイン・ジェイコブズの世界 1916-2006 〔別冊『環』22〕

ジェイン・ジェイコブズの世界 1916-2006 〔別冊『環』22〕

この本の企画をきかされたとき、どんな本になるかはだいたい想像がついて、まあほぼその予想通りだった。いろんな分野の専門家が、自分なりの専門分野からジェイコブズについてあれこれ語る――それは決して悪いことではないし、その意味でこの本も、悪いものではない。

が、すっごくよいものでもない。『アメリカ大都市の死と生』解説でも書いた通り、ジェイコブズの価値は、そういう専門分野を無視したところにあるからだ。各種専門家の意見の寄せ集めでは、たぶん不十分だ。さらに、ジェイコブズを評価する人の多くは、「よいまちづくり」といった話が好きな人々で、人に優しい多様で魅力あるまちづくり、みたいな話をありがたがる。でも、ジェイコブズは実は、必ずしもそういう見解に好意的ではない。が、たぶんそれをまともに指摘する人は、おそらく他の執筆者にはいないだろう。ジェイコブズに対するまともな批判を紹介する人すらそんなにいないんじゃないか。

すると、ぼくが憎まれ役を引き受けて、そういう話を全部やるしかないよなあ。そのためには、基本的にこの本の他の著者全員に、バーカと言うに等しいことをしなければいけないなあ。

というわけで、書いたのが次の文章だった。

ジェイコブズの教訓:強いアマチュアと専門家の共闘とは (pdf, 400kb)

たぶん他の執筆者は、あまりうれしくなかっただろうね。心優しいまちづくりの人たちは、市民運動とかエコとかいった話が好きで、この中で批判されているインチキな反原発(こう書くとすぐにキイキイ言う連中が出てくるんだけれど、インチキでない反原発だって当然あるのだ)活動とつるんでいたり、ある程度ほめられている小林よしのりにえらく反発したりしている人々も多いので、ジェイコブズがそんなのと関連づけられているなんて気に入らないだろう。

でも、ここに書いたような話はどこかで言っておくべきだと思う。そして、アマチュアにこんなことを言われるのは、そもそもが「専門家」たちが十分に専門してないからだ、というのもこの論説の主張ではある。

別の話で、専門家とアマチュア、みたいなことを少し考えていたので、こんな原稿を掘り出してくるのも無意味ではないだろうと思うに至ったので。ご笑覧いただければ幸い。

 

ところでいまジェイコブズ関連のブログをいくつか読んでいたら、この別冊『環』の編者の一人でもある塩沢由典がそのほとんどに2015年あたりにやってきて、コメント欄にいろいろ書いている。ジェイコブズに対して少しでも批判的なことが書いてあると許せないようなんだけれど、そのブログで紹介されていた批判に対しては直接反論できず、「すごいんだぞ」と言うにとどまっているのは残念。そしてこの『環』が出るという話と同時に、「知られざるジェイン・ジェイコブズ」なる本の翻訳が進んでいるという話を書いているんだけれど、どうもまだ出ていないらしい。どの本の翻訳かは知らないけれど(上の論説の最後で写真を載せた Ideas That Matter かな?) 遅いなあ。ぼくにやらせればすぐ(そして上手に)できるのに。

Ideas That Matter: The Worlds of Jane Jacobs

Ideas That Matter: The Worlds of Jane Jacobs


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Amazonレビューをサルベージした理由

ここ一週間ほど、ずっとアマゾンのレビューをサルベージしていたんだけれど、その理由は突然すべてのレビューが消されてしまったから。個々のレビューが消されたことはこれまでも何度かあって、だいたいが酷評された人が文句を言ったことが多かったんだけれど、今回のはなんだかわからない。

アマゾンに問い合わせたところ、以下のようなお答えがきた。

Amazon.co.jpにお問い合わせいただき、ありがとうございます。

これまでのお客様のAmazon.co.jpコミュニティ内での活動を調査した結果、ガイドラインに違反していた行為がございましたので、このほど、ご投稿いただいておりました全てのカスタマーレビューを非掲載に変更させていただきました。今後は当コミュニティへのご投稿は行えません。

Amazon.co.jpでは、お客様のアカウントにおける活動状況を慎重に調査し、今回の判断を行っております。なお、この判断については変更されることはございません。

Amazon.co.jpをご利用いただき、ありがとうございました。

Amazon.co.jp カスタマーサービス 木島

ご利用ありがとうございました。 Amazon.co.jp

---- お問い合わせ内容 ----


02/18/17 12:34:21 名前:山形浩生 コメント:以下1点の項目を記載のうえ、メール送信ボタンを押してください。

  1. お問い合わせ内容 ぼくの書いたアマゾンレビューがすべて消えているのですが、何かあったのでしょうか。

こういうことなので、復活はあり得ない。文句を言っても受け付けられない。書いても予告なしに消されたりするので最近はアマゾンにはレビューを書かないようにしていたんだけれど、まさか全部消されるとは予想外でした。

だけど、ガイドラインに違反していた行為って何なんだろう? ちなみに、ガイドラインは以下の通り:

Amazon.co.jp ヘルプ: コミュニティガイドライン

広告利用もないだろうし、違法コンテンツもなさそうだし、URL入りのやつはあったけれどいつの間にかそこだけ削除されていたし。たぶん、酷評された人が逆恨みして、誹謗中傷だと文句をつけたということなんじゃないかとは思うけれど、真相はわからない。

サルベージは、WayBack Machineに残っている過去の履歴を使っている。サッセンをめぐるネットてんぐ氏とのやりとりとか、コメント欄でも救いたいものはあったけれど、そこまではさすがに無理。

2004年以降のものの相当部分はサルベージできたけれど、明らかに抜けているものはある。ロラン・バルトが、だらしない左翼ポチぶりを全開にして「ソ連に神話はない」とか語っちゃってる初期エッセイ集とか、トロツキー自伝の上巻、ジョブズ伝の第一巻とか。あと古いヤツね。ヒラリー・クリントンが実はは虫類人で夫を操って人類支配を狙ってるという本とか(これが最初のレビューだったと思う)。スキージャンプダブルスのDVD評もあったなあ。は虫類人はともかく、その他のものは記憶から少し補ったりするかもしれない。

しかし余計な手間がかかってアレだわ。消すなら事前に予告してほしいもんだぜ。

(追記:その後、もう少し細かく見て、ロラン・バルトのやつとか、トロツキー自伝の上巻とか、スキージャンプペアとか、あとツイッターで教えてもらった「プラネタリウム作っちゃった」本とかサルベージできました!)


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Amazon救済 2014-2016年分

ブエノスアイレス摂氏零度』: ブエノスアイレス 撮影秘話、別ストーリーに別エンディング!この値段ならファンは必見, 2016/6/19

ブエノスアイレス 摂氏零度 [DVD]

ブエノスアイレス 摂氏零度 [DVD]

  • 発売日: 2014/11/28
  • メディア: DVD

久々に映画館で見たので、懐かしくて検索しているうちに出くわしました。王家衛監督『ブエノスアイレス』のメイキングで、非常によくできています。主軸は関係者(現地の手配担当など)との関わりですが、映画のファンにたまらないのは、使われなかったトニーレオンの自殺シーン、はるばる呼び寄せられたのに、最終的な作品にはまったく登場しなかったシャーリー・クワンの場面、チャン・チェントニーレオンといっしょにレストラン厨房で働いていた野球帽の青年)の登場する他の大量のシーンなど。トニーレオンは、当初は最後にシャーリー・クワンといっしょにイグアスの滝にいくような撮影になっていたんですねー。王家衛自身の様々なコメント、トニーレオンレスリーチャンのタンゴのレッスンも非常にいいと思うので、是非是非!

U字水道管: 問題なし。なお、パッキンもついていますので、別に買う必要なし!, 2016/6/3

流しの排水管が避けていて、いつの間にか水漏れするようになっていたので交換しました。素人でも簡単にできます。なお、両側のパッキンもついてきます。アマゾンだと、一緒に買うようおすすめで出てきますが、必要ありません。今後買う人のご参考まで。

『ダイヤモンド ピケティ特集』: 奥谷禮子コメントを見逃すな! ピケティに対抗して大化の改新まで遡る偉業! 2015/2/10

そろそろピケティ特集も、本体の解説は食傷気味なのか、このダイヤモンドではむしろ周辺の人々の反応を中心に載せております。とはいっても、他でも見かけた似たようなメンツも多く、いまいち新味が出せていない……と惰性でページをめくるなかで行き当たった衝撃のピケティ評が、p.51 の奥谷禮子によるコメント! こいつはすごい。日本で格差が出たのは若者の責任感がないからだとか、企業はでたらめな労務管理はできないといった次の文で、でも健康管理は労働者の自己責任だと言い放つ。この短さでここまで支離滅裂なのは、一種の曲芸ともいうべき技でクラクラします。2千年前から r と g を示したピケティに対抗し、大化の改新までさかのぼった、歴史性の豊かさも衝撃です。他もたかが半ページにつっこみどころ満載で、突っ込み密度は最早ブラックホール級。逃げられません。ダイヤモンドは、これを計算ずくで載せているとしたら、すばらしい策士ぶり。ここのところは必読!  でも半ページなので立ち読みでもいいかな。

前半はまあまあですが、受け売りの際にはご注意を。, 2014/12/16

ピケティ入門 (『21世紀の資本』の読み方)

ピケティ入門 (『21世紀の資本』の読み方)

  • 作者:竹信 三恵子
  • 発売日: 2014/12/08
  • メディア: 単行本(ソフトカバー)

前半のピケティ『21世紀の資本』のあらすじ説明は、まあまあ普通です。ただ、有名な r > g の式に出てくる r をガンマだと思っていて、読み仮名つきで γ (ガンマ) とやってしまうという (p.21) 、この分野の基礎知識の欠如が出ています。受け売りする際には十分に注意してください。

後半はそれを日本に適用し、アベノミクス「批判」をしています。が、常に全体的な傾向をきちんと把握せず、個別の事例や細かい政策だけをとりあげて文句を言うという不適切な議論が展開されます。第3章では、カルロス・ゴーンが高給取りだ、高給取りが増えたというのにケチをつけますが、そりゃ金持ちはいるでしょう。でもそれが経済の中でどういうシェアを占めるのか考えなくては話になりません。また4章以降のアベノミクス批判は、通常言われるアベノミクスの大枠(三本の矢というやつ)はほとんど無視して、被災地の女性就業策が弱いとか、労働の規制緩和がダメとか、個別の政策についての論難に終始。それも、きちんと政策評価しているのではなく、著者の印象を挙げただけです。賛同できる部分も多少はありますが、政策批判としてはお話にならないレベルです。で、ピケティがそれにどう関係してくるかというと……関係しません。格差が大きな問題だと言っている、という入り口の話だけであとはまったく出てこない。ピケティはそういう個別政策にまで入り込んだ議論をしてないから当然なんですが。

冒頭の記述によると、編集部に本書を書けと言われるまでピケティを読んだこともなかったとか。解説を書かせるなら、多少はピケティが関心領域に入っていて基礎知識のある人にやらせたほうがよかったのではないかと。おすすめはしませんが、前半のアンチョコ部分は、まあまちがってはおりません。

2015.1.23追記:本日書店で見た第六版では、上の γ(ガンマ)は r になおっていました。まちがいを直すのはよいことです。

アレクサンダー『形の合成/都市はツリー』: アレクサンダーの入手しにくい著作をまとめてくれて感謝。でもこの変な本文の組み方は?, 2014/2/26

ずいぶん昔に出て、長いこと入手しにくかった「形の合成に関するノート」。アレクサンダーが、いまのような宗教がかった話に入り込まず、理論的な機能造形の構築手法を考えていた時代の本で、パタンランゲージの各種要素組み合わせによる建築のアイデアの萌芽が見られ、なかなかおもしろい。またあわせて収録されている「都市はツリーではない」は、形の合成でのアプローチをいわば否定して、もっと複雑で階層化されないものとしての都市を考え始めた有名な論文。なかなか手にいれにくかったので、こうしてどちらも読みやすくなったのはすばらしい。のだが……

本のつくりが異様。本の下の余白がまったくなくて、ページぎりぎりまで字が迫っていてびっくり。なんだか、「形の合成」を改めて組み直すさずに、昔の版を無理矢理この判型に押し込めたような感じになっている。なぜこんなことに?

ある意味でこの二冊とも、手に取る人の大半はアレクサンダーに興味があって、その考え方の変遷をたどりたいと思っているのではないかと思う。その意味で、ちょっとマニアックな本なのであまりきれいに本として作り直す手間をかけたくなかったということだろうか。でも、一部(たとえばこの評者)は、この頃のアレクサンダーが持っていた可能性のほうがおもしろいと思っているので、もう少し読みやすさとか本としての作りに配慮してくれてもよかったように思う。