デミック『密閉国家に生きる』:インタビュー録としてはまあまあ。

密閉国家に生きる―私たちが愛して憎んだ北朝鮮

密閉国家に生きる―私たちが愛して憎んだ北朝鮮

北朝鮮からの亡命者に著者が行ったインタビュー録。北朝鮮暮らしの日常、悩み、絶望、その他を西洋式インタビューとしてうまくまとめてあると思う。よい本。でもかつて『北のサラムたち―日本人ジャーナリストが見た、北朝鮮難民の“真実”』を読んだような衝撃はない。国と将軍様を盲信しつつも、だんだん疑問と不信にとらわれて、悩みつつどこかで自分の教わったすべてを否定するに至るプロセスとか、その後の脱北の苦労とかは、本当にしみじみ切なく悲しくて、賞をもらったというのもよくわかる。しかし北朝鮮の人々も普通の人なんだ、というのをやたらに強調することでその暮らしの悲しさを浮き彫りにしようとするあまり、脱北者の心理のゆがみとかはあまり出てこないのが不満。

また電気のない暗闇の中のデートというネタにしても、かつて根本敬北朝鮮にでかけて、かれらのオナニー事情とか「セックスする場所がないから留守に寸暇を惜しんでやるので、北朝鮮の男はみんな早漏」なんてのを現地のエリートから聞き出したのに比べるとつまらん。

平壌事情も最近では、ディスカバリーチャンネルで北のマスゲームダンサーの小学生一家に密着取材した番組や、Don't Tell My Mother平壌訪問の回など、かなり報道されてきて、単に北朝鮮の赤裸々な日常や現状、というだけではインパクトが薄い。ぜいたくだとは思うし、いい本で、下世話な興味の面で根本敬の下ネタに劣るなんてことで評価を下げるべきではない志の高い本なのも事実なんだけど、でも人間の評価や判断がそうしたものに左右されてしまうことは、いま読んでいる「瞬間説得―その気にさせる究極の方法」にも書かれている。だから他を押さえて紹介したくなるほどでは……



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山形浩生の「経済のトリセツ」 by 山形浩生 Hiroo Yamagata is licensed under a Creative Commons 表示 - 継承 3.0 非移植 License.