- 森谷「政治と技術」: 根本的な事実認識からしてまちがっている無力な本。 2004/12/1
- LG DVDレコーダ: 大きな不満はないが強いて言えばファン。 2004/11/28
- ハンフリー『喪失と獲得』: なぜ自分は天才でも美男美女でもないのか、とお嘆きのあなたに!, 2004/11/3
- レム『ソラリス』: 新訳する意味があったのかな? 改善はされているけど。, 2004/10/27
- 梅棹『ITと文明』: ゆるい本に梅棹忠夫の自慢話風味そえ。, 2004/10/26
- ほとんど文句なし。文筆業にはこれだけで十分!, 2004/10/20
- ゴンブロヴィッチ『トランスアトランティック』: 中原昌也meets太宰治という感じだが、つまらない。, 2004/10/19
- 朽木『貧困削減と世界銀行』: 偏った概説に思いつきのちりばめ。不安な本です。, 2004/10/11
- 安田『人脈づくりの科学』: 支離滅裂で何も説明できていない。, 2004/10/8
森谷「政治と技術」: 根本的な事実認識からしてまちがっている無力な本。 2004/12/1
政治は技術にどうかかわってきたか―人間を真に幸せにする「社会の技術」 (朝日選書)
- 作者: 森谷正規
- 出版社/メーカー: 朝日新聞社
- 発売日: 2004/11
- メディア: 単行本
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ケータイとかパソコンとかの技術は発達しているのに、公害防止とか交通システムとか新エネルギーとかの社会的な技術は導入がすすまず、だから人々の生活はどんどん悪くなっている、というのが本書の主張。だから、政治的にいろんな技術導入を進めるように努力しろ、と本書は主張する。
まず当初の認識からしてまちがっている。公害は1970年代をピークに、どんどん改善されている。通勤ラッシュがひどいひどいと言うけれど、これも1970年代をピークに改善されている。なぜか? 各種技術がちゃんと社会に適用されてきたからだ。要するに、社会的な技術が導入されてこなかったというのはまったくのまちがい。そして著者だって本書で日本の公害防止の取り組みについて書いているんだから、それを知らないはずはない。でもそれを故意に隠して我田引水を試みるのは実に悪質だ。ダイオキシンや地球温暖化の話も、あまりよく知らないのに知ったかぶり。新エネルギーだって、まだ効率あがってないから補助金づけじゃないとまわらない。だから広まらないってだけなんだけど。
著者は、産業技術と社会技術とが不均一に発達して矛盾しているというけど、そんなことないの。ただ社会的な技術というのは、広まるのにちょっと時間はかかる。それだけの話だ。なぜかといえば、それは民主主義のおかげ。合意形成には時間がかかるんだ。著者の主張は要するに、自分はえらくてなにやら答を知っているので、それを政治的に強権的に押しつけろ、というもの。そりゃそうすればすぐいろんな技術は導入されるだろう。でも独裁国家じゃないんだから、そんなことはできないの。著者の議論はしょせん社会工学者にありがちな、強健独裁者待望論だ。それはそれで悪いことじゃないんだけど、そういう認識を自分で持っていないのは致命的。それゆえに役にたたない本。
LG DVDレコーダ: 大きな不満はないが強いて言えばファン。 2004/11/28
- 出版社/メーカー: LG Electronics Japan
- 発売日: 2004/07/10
- メディア: エレクトロニクス
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安いし(3万5千以下)、機能的にも一般用途では十分。古いビデオのDVD化に使っていますが、特に不満なし。多少操作がめんどうくさいのは、まあいろいろ入っているマシンの宿命でしょう。
唯一言うとすれば、背面に大きめのファンがついていて、それが背面から1cm ほど飛び出しています。おそらく、壁にぴったりつけてこれをふさぐのは望ましくないのかな、という感じ。さらに、このファンがそこそこ音をたてます。ビデオやDVD再生時には、そっちの音があるので気になりませんが、時々静かな部屋だと「あれ、パソコンのファンが妙に音をたてている」と思うとその半分がこのデッキです。使わない時は電源を切ればいいだけの話ではありますが、過敏な方は考慮に入れておいたほうがよいでしょう。
また、D端子の横にネジ頭が出ていて、コネクタの接続が非常にしづらくなっています。このため設置が非常にやりにくく、またケーブルをはずれやすくしてしまっています。
ハンフリー『喪失と獲得』: なぜ自分は天才でも美男美女でもないのか、とお嘆きのあなたに!, 2004/11/3
- 作者: ニコラスハンフリー,Nicholas Humphrey,垂水雄二
- 出版社/メーカー: 紀伊國屋書店
- 発売日: 2004/10
- メディア: 単行本
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人は生存に有利なので知能を発達させた、というけれど、それならどうして身の回りにはこんなにバカが多いの? 美男美女は相手に困らず遺伝子を残しやすいはず。だったらなぜ遺伝はみんなを絶世の美男美女にしてくれなかったのか? 本書はそれに対して、コロンブスの卵みたいな説明をする。頭がよすぎると、何でも自分でできてしまうので、他人との協力の必要がなくなり、社会が成立しない。孤高の天才がたくさんいるより、バカが相互に相談して協力する社会のほうがいいんだ! 美男美女でない人が、なんとか相手を獲得しようと努力することから人間は進歩する。つまり個体のためにも種のためにも、天才や美男美女だらけでないことには必然性があるんだ! 何かを喪失することで、もっと大きなものを獲得する戦略がそこには働いている!
その他、ラスコーの壁画と自閉症の天才絵画との類似性から古代人の精神世界を考察する衝撃の論考(あれは古代人に文化があったことを示すものではなく、言語能力の欠如を反映している!)、プラシーボ効果やトンデモ宗教の意味など、ショッキングでありながら実に自然な説明が進化論の観点から次々に繰り出される名作。楽しくも意外な主張の数々にわくわくさせられます。訳もすばらしい。是非ご一読を!
(追記: その後、2017年にラスコー展を見て、この最後の段落の評価は完全に覆った。
レム『ソラリス』: 新訳する意味があったのかな? 改善はされているけど。, 2004/10/27
- 作者: スタニスワフレム,Stanislaw Lem,沼野充義
- 出版社/メーカー: 国書刊行会
- 発売日: 2004/09
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長年、「ソラリスの陽のもとに」として飯田規和訳で読まれてきた、レムの傑作の新訳。旧訳がロシア語からの重訳だったのが、今回はポーランド語からの直接訳、また旧訳の検閲による、原稿用紙40枚分にもわたる脱落カ所が復元された、というのが売り。 復元個所として大きなものは、「怪物たち」の章の p.197 12 行目から p.202 7 行目 (原稿用紙12枚分)、p.202 15 行目からp.204 5 行目 (4 枚分ほど)。「思想家たち」の章だと、p.284 11 行目から p. 294 まで 20 枚分強。「夢」の章ではp.299 最後から 2 行目から、p.301 の12 行目まで。
ただし検閲というから何か内容的にヤバイことが書いてあったのかと思ったら、全然。どれも、かなり衒学的なソラリス学の話を端折ったか、ちょっとダレ気味の描写を刈り込んだ、むしろ編集的な処理。また飯田訳のほうがこなれている。たとえば飯田訳のハヤカワ文庫版 p.175 で「指切りする?」と尋ねるハリーは、沼野訳では「聖なるものに誓って?」(p.178) とかなり大仰。たぶん飯田訳は意訳、沼野訳は原文の直訳に近いんでしょう。
比較すると、飯田訳は検閲や重訳による劣化がほとんどない。細かいちがいはあっても、大勢に影響はないところばかり。新訳を見ると、むしろ半世紀近く前に行われた飯田訳のずばぬけた優秀さが目立つとともに、なんでわざわざ新訳したのか、ちょっと疑問に思ってしまう。
もちろん改善は見られるし、今から読むならまあこの新訳のほうでしょう。でも価格差を正当化するほどの改善かというと口ごもる。いずれで読んでも、まったく理解できない存在に遭遇し、人が自分自身についての再考を迫られる、ファーストコンタクト哲学SFの不朽の名作としての価値はほぼ同じです。
梅棹『ITと文明』: ゆるい本に梅棹忠夫の自慢話風味そえ。, 2004/10/26
- 作者: 梅棹忠夫,村上陽一郎,八巻磐,河村智洋,長谷川寿一,NTTオープンラボ,池田謙一
- 出版社/メーカー: NTT出版
- 発売日: 2004/10
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梅棹忠夫おべんちゃら本、と言うと言い過ぎかもしれないけれど、本当にそんな感じ。サルから文明へと言いつつ、サルから20世紀までは長谷川寿一の話がちょろっとあるだけ。各種論者がちょろっと自分の関連分野の話をして座談するが、目新しいものは何もないし、それをまとめあげる強い視点も問題意識もない。最初と最後の梅棹の放談は、単にこれまでの自分の業績自慢で、さらに「たとえばホームページに私の談話などが平気で盗まれているかも知れない(中略)それこそ情報機器の危機です。恐ろしいことです。これを下手に野放図にしたら、情報産業そのものまで崩壊しかねない」(p.47) と電波なことを得意げに言い立てているさまは、ほとんど頭痛もの。だれか止めてやれよ。結果として、全体として散漫で、新しい発見も方向性もないゆるい本になっています。
ほとんど文句なし。文筆業にはこれだけで十分!, 2004/10/20
(確かブラザーのmymioの古いヤツだったと思う)
この手の複合機でなかなかつかなかった留守番電話をやっと装備。LANにつなぐだけでスキャナも使えればファックスも送れるというのは実に便利。プリンタはレーザプリンタほどは速くありませんが、印刷する回数は減ってきているし、ごくたまにカラーが要る時にも対応できるのも吉。スキャンや印刷の密度も、ぼくが使うくらいの本からの図やグラフの読み込み・印刷には十分すぎるほど。
月にカラー5-6枚、白黒10枚ほどの印刷で、インキは8-9ヶ月程度で空になりました。どの色もほぼ同時です。もっぱらクリーニングで使われたようです。インキの全色セットは高いと言えば高いのですが、まあそんなものではないかと。
またちょっと不具合があり(印刷が終わった後で「印刷できない」と表示が出る)、サポートに連絡したところ、「代替機を送るから実物を着払いで返送してくれ」とのこと、翌日には代替機が届きました。修理に約一週間、きちんとなおっており、まったく問題なし。この経験から判断する限りサポートの対応はすばやくきわめて優れており、SOHO利用でもよほどのヘビーユースでない限り安心して使えます。 コメント コメント | ブックマーク
ゴンブロヴィッチ『トランスアトランティック』: 中原昌也meets太宰治という感じだが、つまらない。, 2004/10/19
- 作者: ヴィトルドゴンブローヴィッチ,Witold Gombrowicz,西成彦
- 出版社/メーカー: 国書刊行会
- 発売日: 2004/09
- メディア: 単行本
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全体の雰囲気は、中原昌也の小説に太宰治を入れた感じ。スラップスティック的に誇張された各種出来事が罵倒語満載で描かれて、その中に「永遠の青二才」たるゴンブロヴィッチが、自分は大作家だという肥大した自意識を抱え、根拠なしの変な自信と、現実の立場をを見たときの自己嫌悪をいったりきたりしつつうろうろする。でも、つまらない。スラップスティック部分は笑えるほどおもしろくないし、自意識過剰な作家の話なんてうっとうしいだけ。
本書は在外ポーランド人社会を戯画化したことで在外ポーランド人たちからものすごいバッシングにあったそうだけれど、いま読んでなぜこんなものがバッシング対象になるのか首をかしげる程度。ポーランド性がどうしたこうした、という話も、特にその問題に切実な思い入れがなければピンとこない。また、訳者や収録された論文に書かれた、ことばの問題についても、訳者たちが騒ぐほどのものじゃない(少なくとも翻訳は)。翻訳が酷い日本語だと思うだろう、というんだけど、いまや普通か、かえって上品なくらいじゃん、この程度。
訳者解説は、翻訳にいかに苦労したかという話を自慢げに書いているけど、数十ページも自慢するほどの代物じゃないし、また亡命者が祖国喪失がとよくある話もありがちなおブンガク談義の域を出ない。
(追記:このレビューを読んで訳者は激怒して、いまだに山形の名前が出ただけでお冠になると風の噂でききました……)
朽木『貧困削減と世界銀行』: 偏った概説に思いつきのちりばめ。不安な本です。, 2004/10/11
貧困削減と世界銀行―9月11日米国多発テロ後の大変化 (アジアを見る眼)
- 作者: 朽木昭文
- 出版社/メーカー: アジア経済研究所
- 発売日: 2004/09
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世界銀行が、9.11テロを境に貧困削減を重視する政策に切り替えた、という珍説を主張した変な本。貧困削減は、ウォルフェンソンが親玉になったときからずっと主張してた話だし、それが9.11テロで特に変わったということもないんだけど。むしろ9.11以前は、ウォルフェンソン流の「経済成長か貧困削減か」というトンデモ二者択一でやってたのを、やっぱ貧困削減には経済成長しないとダメなんじゃないの、という常識が(本書で紹介されているダラーやイースタリーのおかげで)復活してきた、くらいのことで、それも9.11のせいではないはず。
途中で紹介されている政策の優先順位づけも、まあ穏当だとは思うけどよく読むと単なる著者のアイデア。産業クラスターの話も、まあそういうのもあるかもしれない、とは思うが単なる思いつきの提示にとどまる。日本の成長戦略を他国に輸出、と言うけれど、それがそんなに簡単な話じゃないというのもこの世界では常識だと思うんだが。全体に、著者のかなり偏った思いこみ(この人、世銀で働いていたはずなのに……)や思いつきを並べただけ、という印象を免れない。
(これを掲載したら、某援助機関から「内部ではみんな思っているのに口にできないことを書いてくれて、山形はその機関内ではヒーローです」というメールをいただきました……)
安田『人脈づくりの科学』: 支離滅裂で何も説明できていない。, 2004/10/8
- 作者: 安田雪
- 出版社/メーカー: 日本経済新聞社
- 発売日: 2004/08
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人脈をネットワーク図にして分析すると、いままでとちがう科学的アプローチが可能になる、という話はおもしろそうだ。またそれぞれの章末などについている、チャート式めいたまとめも、なるほど、という感じではある。でも本書は、その両者がまったくきちんと結べていない。一文一段落の宇能鴻一郎みたいな書き方で、しかもその文章がまともな脈絡をまったくつけずに並べている。
何がネットワーク分析から導かれ、何がそうでないかもごっちゃで、「共通の敵となることで仲の悪い人々を結びつける」といったおもしろいアイデアも、なにやら作家のエピソードや世間的な常識を引っ張ってきただけというものが多すぎる。章のまとめの部分で、それまでまったく出てきていない話題に言及したり、またなにやら数式を持ち出してきながら、それぞれの変数が何を指すのかまったく説明しなかったり。まとめも、結局何が優れた人間関係かはわからないけど結果を出すのがいい人間関係だ、という何も言ってないに等しい代物。よくこんな人が学者をやっていられるものだ。
本書に関する他のレビューでほめているのものは、人間関係についてのチャート式みたいなまとめの部分だけを見てあれこれ言っているようだけれど、それがどうして導かれるかまったく説明できていないどころか、実はこの分野の成果として言われているものなのか、ひいてはそれが本当に正しいのかも不明。おもしろそうな分野ではあるんだけれど、本書では何もわかりません。