西村『ピケティ『21世紀の資本』の衝撃』:「1分間ピケティ」よりましだが、やはりレベル低い。

『1分間ピケティ』と同じ著者の本。似た内容をあっちにも売り、こっちにも売り、というわけでお手軽なもんです。

本書の「これまでの出版物とは決定的に異なる差別化」は、すべてQ&A形式にしたということ、だそうです。えー、池田信夫の本はすべてQ&A形式になってましたけど? そして中身は、まあ大ざっぱなところではいいけど、いろいろむずむずする。

たとえば、20世紀半ばに格差が減ったのは、戦争と大恐慌だけが原因で、経済政策によるものじゃない、とピケティが言ったことになってる(p.28)。うん、ピケティは確かにそんなようなことは言ってるんだけど……ピケティは、戦争に伴う累進課税、資産の接収などの各種経済政策が重要だったという話をしている。ところが、この著者の戦争の影響って、戦争で資産がいろいろ破壊された、というだけなのね。それはピケティの言ってることとはかなりちがう。

あと、アメリカでオバマケアに反対が多いのは、貧困層に対する支援策に金持ちが反対しているからだそうな(p.62)。うん、そういう面は強いよね。でもそれに続いてこの著者は、実はオバマケアというのは、貧困層支援に見せかけて、実は富裕層を富ませるための施策なのだ、という変な主張を持ち出す。えーと、いやそれでもいいんだけどさ、それならなぜ富裕層はわざわざそれに反対するんですか? 前半で言ってたことが全然成り立たなくなりますよね。

あと、r>gが問題なら、資本収益率(r)を強制的に低くすればいいんじゃないか、というQを挙げてるんだけど (p.104)、それに対する答えとして、イスラム金融でも利潤は禁じてないとか旧ソ連は失敗したとか。だから強制的に低くできない、と言いたいらしい。でも……20世紀半ばのrの低下は、税引き後のもので、まさに課税によりrが強制的に低下させられたせいだよね。旧ソ連とかイスラム金融とか、この文脈では関係ないんですけど。

資本主義が富の格差を生み出すのはなぜか、というQに対するAは、資本には無限蓄積の原理が働くから、というもの(p.26)。でもそこで出てくる例は、ロンドンやNYの賃料高踏。えー、資本の無限蓄積って、再投資を繰り返すから生じるものであって、ロンドンやNYの賃料高騰は別に再投資が活発だからってわけじゃないですよね?

その他、金融緩和とかインフレ目標がまるっきりわかってないのは、もはや何も期待してないからいいよ。全体として『1分間ピケティ』よりはデータも見せつつ各項目も字数が多いので、少しまし。でも全体の水準は似たり寄ったり(著者が同じだから当然だけど)なので、おすすめしない。