西村『1分間ピケティ』:1分じゃわかんねーっす。中身もほめられない。

1分間ピケティ 「21世紀の資本」を理解する77の理論 (1分間人物シリーズ)

1分間ピケティ 「21世紀の資本」を理解する77の理論 (1分間人物シリーズ)

見開きで77つのトピックを挙げて『21世紀の資本』を解説しようというんだけど、それがあまり体系だっておらず、散漫な羅列になっているので、読んでいてもあまり頭の整理がつかずに何も残らないんじゃないかなあ。説明のために挙がる例というのも、当人はわかったつもりらしいんだが意味不明のものが多い。たとえば:

たとえばある人が所有する庭にすべての石油が埋蔵されているとします。この人が世界の石油を100%独占して資本所得を上げ続け、世界中の人は死ぬまで彼のために働き続けて労働所得を上げるしかないという考え方は、民主主義では受け入れられません。
ところが資本主義では否定されないのです。(p.2)

ご当人はこれがわかりやすい例のつもりらしいんだが、読んですぐ:

  • これってどういう仕組みで世の中まわってるの? 石油と労働しかない社会って?
  • 石油って資本なの?
  • この石油の庭の持ち主が世界の人を全員雇ってるの?
  • その人はどの程度の給料払ってるの? その水準次第では民主的にこれが容認されることもあるのでは?

といった疑問が浮かぶ。著者はなんか勝手な前提をあれこれ置いているんだろうけれど、それがまるで説明されず一向にピンとこない。著者はこの例で、資本主義と民主主義が一致しないと言いたいそうなんだが、なんかよくわからん。

あるいは消費税の説明で、貧乏人のほうが打撃が大きいというのの説明はこんな具合。

消費税を10%とすれば、富裕層(月額消費1000万)は100万円の消費税を払うが、まだ900万円の実質購買力がある。それに対してマス層(月額消費10万)は、一万円の消費税を支払うと、実質購買力は9万円だ。支払う消費税では富裕層のほうが多いが、購買力に対する打撃という点では、マス層のほうが大きいのである。(pp.50-51)

えーと、どっちも購買力が一割下がっただけですよね。なぜマス層のほうが打撃が多いと言えるんですか? これはもちろん、消費の限界効用の逓減みたいな話をしないとぜんぜんまともな説明にならないんだけど、そういうのはまったくなし。

あと、ニューヨークは家賃が高くて労働者が家賃で搾取されてるとか(家賃は市場で決まるし、NYはrent control もあるんだけどなあ)、理論的な各種の資産モデルと、人々の実際の資産形成行動との話が区別できてないとか (p.171)、なんか本当に要領を得ないふわふわした記述ばかりで、読んだ人はかえって混乱しそう。おすすめしない。