経済学でも男女で意見の相違があります

エコノミスト』で、経済学者でも男女で意見に差が見られるという研究を紹介し、こういう意見の相違が研究にも影響するかもね、という記事を載せたところ、経済学関係者の出入りするフォーラム、Economic Job Market Rumors で関連スレッドが、まさにここで紹介された経済学セクシズムホイホイと化しているそうです。

で、問題の記事とはどんなものか?お楽しみあれ(ここは一つ、ディアドラ・マクロスキーのご意見がほしいところ)

経済学でも男女で意見の相違があります

Men and women in economics have different opinions

The Economist, 2018/2/15

男は火星から、女は金星からやってきたという。でも経済学者は当然ながら惑星地球に暮らし、それを感情に左右されずに調査しているはず、ですよね? 残念ながら、新しい論文によると、この陰鬱な科学者たちですら、男女の性別で指向が分かれるという。ネブラスカ大学リンカーン校アン・マリー・メイとILOのメアリー・マクガーヴェイは、ヨーロッパ18カ国の経済学者を調査して、人口全体で見られる男女差は、経済学教育を受けても生き残ることを示した。男性経済学者たちは、女性に比べて政府介入より市場による解決を好み、環境保護について懐疑的で、再分配には(ほんの少し)後ろ向きだ(図を参照)。

経済学者の意見の男女差

メイらによるアメリカの経済学者を対象とした類似調査でも、男性は政府規制に懐疑的で、アラスカ国立野生保護区での石油採掘にも平気だし、最低賃金引き上げは失業を引き起こすと考える傾向があると示されてている。女性は、ウォルマートが純便益を生み出すという見解に対する合意比率が14ポイント低く、アメリカの貿易自由化は、外国での労働基準引き上げを条件にすべきだという意見に合意する率が30ポイント高い。

こんな男女差は、別に問題ではないのかもしれない。結局のところ良い経済学は、理論とデータを使って偏見を抑えることなのだから。でも一部の証拠を見ると、イデオロギーは経済学者の研究にも忍び込むのだと示唆される。シカゴ大のズービン・ジェルヴェ、コロンビア大のスレシュ・ナイドゥ、コロンビア・ビジネススクールのブルース・コガットは経済学論文で使われている用語を整理して、著者の指向を算出し、それが政治的な署名活動での参加と一致していることを示した。右派経済学者たちは、市場への介入に反対する推計を生み出しがちだという。ナイドゥの計算した他のデータを見ると、女性は男性よりも左がかった用語をつかいがちだ。

この意見の相違は、経済学分野が圧倒的に男性の多い分野だということを考えると、懸念材料になる。メイらは、標本内の男性たちは、女性にくらべて教授の率が二倍だったという。経済学者のえらさが男性側に歪んでいるなら、この学問の成果もまた、その男性たちの気に入る方向に歪みかねない。

メイらの明らかにした最後のちがいを見ると、なぜ経済学者たちが性差を問題視したがらないかも示唆される。男性経済学者は、どちらかといえば男性と女性が一般に同じ職業機会を持つと考えがちであり、報酬水準の差もおおむね技能や選択で説明できると考えがちだ。これに対して女性は、一般的にも学問の世界でも、女性は機会が不平等だと見ることが多い。

女性が男性とちがう見方をするなら、その女性たちは経済学のもっとえらい門番たちと対立しかねない。そして男性が、市場は女性を最高の職業へと押しやるのだと考えがちなら、性の不平等が解決すべき問題だという発想に対しても抵抗しがちになるかもしれない。男性はまた、研究チームでの男女比の均等化が経済的な知識を改善するという考え方についても懐疑的だ。

もちろん、意見の相違があってもそれが必ずしも女性に好意的とは限らない。かれらの理由付けは「魂胆を持った理由付け」になっているのかもしれない。つまり自分たちが昇進できないのは、自分たちの欠点のせいではなくシステムのせいだと思ったり、経済学に自分たちの同類がたくさんいれば経済学にとってもよいと思い込んだりしているだけかもしれないい。

でも別の可能性として、女性は個人的な体験から、男性の持っていない情報を得ているのかもしれない。男性だって「魂胆を持つ理由付け」に影響されやすいことは十分に考えられる。自分の成功について、それが不公平な特権のおかげだと思うよりは、自分が頑張ったおかげだと考えるほうが容易だ。

最高の経済学者ですら、自分の偏見には気がつきにくい。1960年に、ノーベル経済学賞受賞者で筋金入りの実証主義者だった故ジョージ・スティーグラーは、経済学者の政治的な願望が理論に与える「有毒な」影響について嘆いたけれど、全体としては実証科学としての経済学は、倫理的にも政治的にも中立なのだと主張した。でも当のスティーグラー自身の見解ですら、一部はこの理想を実現できていない。かれの元大学院生で、いまや独立した経済学者であるスーザン・ブランドウェインによれば、スティーグラーはシカゴ大学経済学部が教授陣に女性を雇った日には辞職すると語っていたそうだ。