ウィルスというものが、みんなの思っているよりずっと多才な役割を果たしているという本。進化にも役立ち、作物の品種改良にも貢献、二酸化炭素固定にも一役買って、人間の胎児も守るという八面六臂の活躍ぶり。
ウィルスとは何か(あと、ウィルスじゃなくてウイルスと書くのが正式なんだって。キャノンはキヤノンが正しいとかみたいな話ね)、それがどういう研究史をたどってきたかをざっとまとめ、それが生物かどうか、細菌とどうちがうのか等々、素人なら疑問に思うこともさくっとまとめてくれる。それを背景として、あとはもう意外なところで活躍するウィルスのあれこれを次々に繰り出す。
非常にまとまりもいいし、言いたいことが明快。後半に繰り出される各種の例も、「へえ〜」度が高く、飽きない。下の「ほほえみ」本は、こういう書き方を少しみならってほしい。一般読者は研究そのものではなく結果が知りたいんだから。
難点は、本が短いこと。まあ、それが売りのシリーズだから仕方ないんだけど、後半のウィルスの意外な活躍は、それぞれ五倍くらいにして詳しく描いてもらってもいいくらいで、今の分量だと食い足りない。ないものねだりではあるんだが……
朝日の書評は少し大きめのをつい狙いたくなってしまうので、もう少し発狂してないとこういったシリーズのチマい本はとりあげにくいんだが、うーん、それも惜しい気はする。むしろ一般の人に読んでもらうには、こういうのを積極的に押していったほうがいいのかも。どうだろう。
ところで、目次や章代の「ウイルス」というのが変な疑似太字みたいな汚いフォントで強調されてるのは、やめたほうがいいんじゃないかなあ。あるいはもっときれいな強調の仕方を考えた方が……
山形浩生の「経済のトリセツ」 by 山形浩生 Hiroo Yamagata is licensed under a Creative Commons 表示 - 継承 3.0 非移植 License.