トマス・ペイン『土地をめぐる公正』Agrarian Justice 元祖ベーシックインカム!

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トマス・ペインのAgrarian Justice、よく題名の直訳で、「農民の正義」とか紹介されているので、農地改革のすすめかなんかだろうと思って読みはじめたら、ぜんぜんちがいました。

なんと1795年の段階で、ベーシックインカムの必要性を実に明解に訴えた先駆的なパンフレット。そして、その論理はきわめて明解。創ったり相続したり買ったりしたものが私有財産というのは認めよう。でも、土地ってだれも作ったものじゃないよね。だから土地私有っておかしいよね。土地に対して、耕作して付加価値つけたら、その分は当然ながら、あんたの働きによるものだから私有できる。でも、いまの土地私有って、その改良を土地そのものと分離できないからって、本来あんたのものじゃない土地自体まで私有してるよね?

だったらその部分、相続税の形で社会に還元して、それを土地という共有財産を奪われた人たちに、ベーシックインカムとしてあげようぜ、というもの。

ベーシックインカムについて、しょっちゅう出てくる反論が「そんなの、何もしてないヤツにお金あげる根拠がないよね」というもの。それに対して、ペインは220年前にすでに、きちんと根拠を出してきた。すげー。

そして実は、土地の話から最後になって「これは土地以外の相続資産にもかけているけれど、それは人の財産は必ず社会のおかげだからだ」という議論にまで話を拡張している。でも土地の部分がかなりもっともらしいので、そこのところも結構納得できるものになっているのはすごい。

というわけで、なんか翻訳があるんだかないんだかわからないし、探すのも面倒だったから、短いし訳してしまいました。

『土地をめぐる公正』 https://genpaku.org/paine/agrarianjustice/PaineAgrarianJustice_jp.pdf (pdf、175kb)

 

『土地をめぐる公正』 https://genpaku.org/paine/agrarianjustice/PaineAgrarianJustice_jp.epub (epub、88kb)

 

『土地をめぐる公正』 https://genpaku.org/paine/agrarianjustice/ (html、55kb)

すごい短いので数時間。

それと、古い人の文って本当に面倒でややこしくて一つの文が長ったらしくて辟易することが多いけれど (ケインズも相当だけれど、その中に出てきたヒュームの引用とか、ちょっと倒れそうだった)、このペインの文章の簡潔さ、明解さ、気取りのなさはほとんど異常。それでいて、立派な理念をこめた格調高い文章でもある。アメリカで『コモンセンス』とかベストセラーになったのも、当然だわ。

 

井上智洋に送りつけて、「いま頃ベーシックインカムとか、200年古いぜ、やーい」と嘲ってあげようと思ったら、当然ながらとっくに知ってるみたいで著書でちゃんと言及してました。アッハッハ。さすがです。

この冒頭あたりでペイン「土地分配の正義」という名前で紹介されている。でも、読めばわかる通り、土地分配の話じゃないんだよね。

ちなみにこの本、本当の題名は

土地配分法および土地独占に反対するものとしての

土地をめぐる公正

人間の条件を改善するため、あらゆる国に国民基金を構築し、あらゆる人物が21歳の年齢になったときに15ポンドを支払い、彼または彼女が世界を始められるようにして、さらに50歳のあらゆる人に、その後生涯にわたり年10ポンドを支払い、今後その年齢に到達した人にも同様にして、高齢でも貧窮することなく、尊厳を持ってこの世から去れるようにする計画

というもの。ぼくは、こういう、読むだけで中身の要約になっている長い題名が好きなんだよね。題名って本来、そうやってきちんと中身がわかるべきだと思わない? 中世の「神の存在を天空の星の運動から疑問の余地なく証明し、天が動くという迷妄を完膚なきまでに論破したすばらしい論考」とかいった題名とか、中身の見事な要約になっている古い小説の章題とかって実に有益だし、復活してほしいと思うなあ。 これを読もうと思ったのは、格差イデオロギーへの初期の挑戦としてピケティの新著で言及されていたから。で、こちらも鋭意進めております!