
- 作者: ロバート・サーヴィス,Robert Service,河合秀和
- 出版社/メーカー: 岩波書店
- 発売日: 2002/03/22
- メディア: ?行本-精装
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社会主義屋にありがちな、レーニンは正しくて、社会主義の悪いところはすべてスターリンがレーニン思想をゆがめただけ、というような変な持ち上げ方もしておらず、一方でかれがその後の強制収容所国家のすべての元凶たる悪魔だといった書き方もしない。レーニン思想のすばらしさをあれこれ喧伝するどころか、むしろレーニンの著作の稚拙さ、理論的な詰めの甘さ、そしてそれがゴーリキなどに見透かされていたこと、目先のセクト闘争への過度のこだわり等々についても非常に抑えた書きぶりで冷静に指摘しており、でもそれがなぜ成功したかという長所についても目配りを欠かさない。読んでいて非常に安心できる本となっている。レーニンについて少しでも興味あれば、まずはこれを読むべき。もう少し強い視点を持ったものが欲しければ、カレル=ダンコース「レーニンとは何だったか」もあり。
翻訳はふつう。原著が非常にわかりやすく、普通に訳せば普通の翻訳になるので、大きな欠点はない。が、ところどころに変な部分が散見される。たとえば「ロシア社会民主労働党内では、彼はすでにかなりの名声を得ていた。むしろ彼は、いちばん評判の悪い人物であった」(p.276) って、どっちやねん?! 実際は「かなりの名声」はsubstantial reputationで、「かなり有名ではあった」とでもすべき。こうした、辞書に最初に出てきた訳語を前後の文脈の考えなしに使っているところがいくつかある。p.315下段でナージャが肉を買うエピソードなども、少し複雑な構文を直訳しすぎて意味不明になっている。またブローニング拳銃がブラウニングになっているとか、細かいミスは目につく。が、それで重要な部分がまったく意味不明になっているような箇所はあまりないのが救い。
上巻は、1916年末、ロシア革命勃発直前までのレーニンの成長過程と亡命時代、ボリシェビキのオルグ、プレハーノフやボグダーノフ、マルトフらとの交遊とその後の権力闘争を描き、少数派なのに多数派(ボリシェビキ)を名乗る変なセクトの親玉でしかない、亡命評論家としてのレーニンを描いたところで終わる。
どうもこれがボツになっているのは、長すぎるからではないかと思慮。一応、800字以内という制約がある。ただし、800字を越えてもOKなときはOKなので、基準ははっきりしないと言わざるを得ない。(追記 800字以下におさえたやつを出したら、載った)。

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