伊東光晴「ケインズ」(岩波新書)

ケインズ―“新しい経済学”の誕生 (岩波新書)

ケインズ―“新しい経済学”の誕生 (岩波新書)

1962年の本で、ケインズ理論黄金期。一方の日本は安保闘争その他で、マル経が幅をきかせ、ケインズ理論なんてのは資本主義と管理社会の尖兵とされていた時期。本書は、ケインズがいかに当時の古典派経済理論とそれを体制化してしまった政治体制に心を痛め、実際に人々を救う実効性のある経済学を生み出そうとしたかを語る。

かなり多くのグラフと数式を使ってケインズ理論をそこそこ詳しく説明しているのは立派。ケインズがデフレを批判しインフレをよいものとしたこと、流動性選好等々、説明はかなりわかりやすい。いまだと、これでもむずかしすぎると言われるだろうけれど、むかしの新書はレベルが高かった。

時代背景もあり、かなりのページをマルクスとの比較に費やしている。また、ケインズ経済学が引き起こした政策的な問題として、軍事支出とインフレを挙げ、理論的には産業ごとの不均衡、独占、そして資本の蓄積がGDP上昇につながっていないことだと指摘。

当然ながら、その後経済学 (Keynes or otherwise) がたどった道筋(とその破綻)については触れられていないが、いまにして思えば、それに至る萌芽はこの問題点の指摘の中に見られ、著者の理解がそれなりに経済学の当時の状況をよく反映したバランスのよいものだったことがわかる。新しいネタに触れていないという意味では古びた面もあるけれど、いまだに結構いい本だと思う。



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山形浩生の「経済のトリセツ」 by 山形浩生 Hiroo Yamagata is licensed under a Creative Commons 表示 - 継承 3.0 非移植 License.