井手「ニューロポリティクス」:MRIで政治的指向を分析というが、「政治」に到達していないんじゃないか。

ニューロポリティクス―脳神経科学の方法を用いた政治行動研究

ニューロポリティクス―脳神経科学の方法を用いた政治行動研究

なぜか、この本アマゾンで扱ってなくて、ここに出てこないんだけれど、井手弘子『ニューロポリティクス』(木鐸社)。アマゾンに出てこないのは、店頭に長く置かせるためのこそくな工作として出版日を先に設定してしまう場合のときもあるんだが、これは2月刊でそういうわけでもなさそう。(なんか発売日が実物とかなりちがって登録されていた模様。本の奥付では2月末巻だが、アマゾンでは3月末刊になっている)

さて、ぼくが初めて訳した普通の単行本はティモシー・リアリー『神経政治学/ニューロポリティクス』だったので、同じタイトルの本なのでちょっと懐かしさもあって手に取った(もっともリアリーのほうは、頭痛がするほどひどい本で、しかも個人的にも翻訳家なんかでは暮らしていけないと悟ったいろいろ曰くのある本で……だが閑話休題)。

で、本書はMRIで脳のどの部分が活性化しているかを見ることで政治的志向とかなんとかを検討しようという本。Lakoff The Political Mind: A Cognitive Scientist's Guide to Your Brain and Its Politics みたいなひどい本になってるんじゃないかと懸念していたんだが、非常にきまじめに、クリントンとブッシュとどっちがいいかきいて、各種プロパガンダ見せたあとにそれがどう変わって、その際に脳のどの部位が活性化しているか、という実験をしている。

が、結局のところ、本書でやっているのはしょせんはネガティブ広告が効くのか、という話でしかないのでは、と思う。政治であることの特殊性というのはよくわからず、コカコーラVSペプシで似たような実験をやって対比させているが、それがどうちがうのかはよくわからない。脳で扱っている部位がちがうというんだが、それは政治性なのか、あるは商品の差(候補者か飲料か)に起因するものなのか? 実験設計として「やってみました」以上のものを出せず、その実験をすることで何を明確にしたいのか不明確。最後はきまじめに、この分野の倫理的な含意とか心配してみせるが、そういう心配は、もっと倫理的に問題あるような結論が出かねない実験ができるようになってからやってほしい。

というわけで、書評にはとりあげません。が、ダメというわけではなく、地道にやってくれると将来的に何か芽がでるかもしれないとは思う。でも本書でもそうだが、日本のまじめな学者の本って、実験結果から何がいえるか、という部分についてものすごく臆病で、「だから何なのよ」ともどかしさをおぼえることが多い。いずれ、「おお、そういうことか!」とシロウトでもひざを打つようなえらい結論を出してほしいと思うんだが……



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