ポズナー&ロスバート『脳を教育する』:いい本だが専門的。

 装幀やタイトル表紙は結構通俗科学書に見せようとしているけれど、かなり専門的。第一章は、ずっと氏か育ちかの議論の紹介に費やされ、第二章は、脳の活性部位を同定する方法の歴史と技術をおさらい。いろいろ基礎固めが長くて、なかなか本論に入らない。

 その後も、いろんな研究の成果を細かく追っていくため、話がなかなか見えない。エピソード → 学問的な知見 → 異論とその否定 →まとめ、という通常の通俗書の流れがまったくない。で、帯には「読み書き算数教育の抜本的見直し」とあるけど、言っていることはあんまり抜本的には思えないんだが……

 個別の観察や研究の成果はとてもよくて、その位置づけなんかも、うまくまとまってると思う。全体にとてもよい本。ただ書きぶりが専門的にすぎる。これを一般の人が読み始めたら、すぐに飽きると思う。

 脳科学的なテーマに多少専門的な関心がある人は是非読むべし。でも、朝日での書評にはつらいのでは、と思った。


 なお、個人的にはこれよりも、巻末にあった同じ会社の刊行によるブラッドレー・マーチン『北朝鮮「偉大な愛」の幻想』のほうにびっくり。これって「Under the lovng care」だよね。あの分厚い本を訳したのか!

 ブラッドレー・マーチンって、バロウズにちなんだ仮名かな? 独裁者シリーズでいずれ訳したいと思ったんだが……



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