ブッシュ『as we may think』

コンピュータの古典文献シリーズ。名前は何度も聴いたことがあったが、実物を読んだことはなかったので、見つけたついでに訳してみました。ハイパーテキストの概念を最初期に提案した文章として有名。

ものすごくアナログで古くさい部分(トランジスタもテープレコーダもできてない時代の文だから当然なんだけど)と、いまも通じる思索の部分との混在ぶりがおもしろい。文中の熱電管というのはつまり真空管のことね。ブッシュは弾道計算のプロジェクトで、デジタルコンピュータよりアナログコンピュータを使おうとしたそうで、あんまりデジタルという発想が全面には出ていないけれど、先進的なことを早い時期に考えていたのはよくわかる。あとメメックスって、何かすごい語源でもあるのかと思っていたら、「いい加減につけた」の一言でおしまい。わははは。マイクロフィルムを使うシステムを考えていたのか……バベッジの解析機関を再現する試みみたいに、メメックスを実際に(マイクロフィルムとリレーで)作って見るプロジェクトとか、すっげえ暇な人はやるとおもしろいかも。

ヴァネヴァー・ブッシュ『考えてみるに (As We May Think)』(1945) pdf, 55kB

原文

さて、このタイトル「As We May Think」は、通常は「我々が考えるかのごとく」とか「我々が考えるように」と訳されるのが通例。前から、なんか訳としてしっくりこないものも感じていた(だからわざわざ読んで見ようと思ったんだけど)。その一方で、まあ読んだ人もいるんだろうし、この訳され方だとこの論文は人間の思考様式を考えてそれに近づく機械を作るにはどうすればいいか、というのを書いた論文だと思っていた。でも……

実際に読んで見ると、ぜんぜんちがう。情報のもっとよい検索システムを創らないと、情報洪水になっちゃうよ、という話が中心で、メメックスの話とかはごく一部。それも人が考えるかのような機械を、という話では全然ない。だからぼくは従来の「我々が考えるかのごとく」という訳はまちがってるんじゃないかと思う。「こういう考えもあるよ」とか「こう考えて見ましょうか」くらいの感じじゃないの?

追記:texソースも置いとくので、直しを見つけた人は直して送ってくれると幸甚〜。

あと、気がついてなかったがこっちに翻訳あったんだね。



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