- 作者: 岩村充
- 出版社/メーカー: 新潮社
- 発売日: 2010/09
- メディア: 単行本
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「ビットコイン騒動で大注目!」なんて帯がついてるけど、これ読んでもたぶんビットコインについては何もわからないと思う。日銀出身者の常として、基本はただのむかしの日銀擁護論を「貨幣とは〜」という哲学じみた本質論みたいな話にまぶしただけの本。
この人の、インフレのときはインフレターゲットがいるけど、日本はデフレだからデフレターゲットがいるのだ、というわけのわからない議論は以前別の本で読んで、こいつは何を言っているんだと思ったけれど、その議論は本書でも健在で、相変わらず意味不明。インフレを抑えるのにインフレターゲットがある(中央銀行が無理にその速度を抑える)ように、デフレを抑えたいならデフレターゲットだ、というんだけど、なぜ抑えるしかできないの? この人の考えというのは、かつての日銀と同じで、インフレデフレというのは何か実体経済側の要因(だけ)で起こるものだから、というらしい。
不完全雇用の状況にあっては、お金の市場が実体経済のほうを規定し、失業を発生させるというケインズ経済学の基本はまるで無視。この人の見方では経済は常に完全雇用で、しかもそれはお金とはまったく関係なく決まっているのね。だからインフレを起こすというのは需要を先食いするだけの話になる。しかもインフレとかデフレというのが、いまの状況では完全に金融的に起こる現象だということさえ認めず、「自然インフレ率」なるものがあるというイカレた議論は、読んでいて頭を抱えてしまう。
で、調整インフレ論やインフレ期待論に対する論難として、もちろん最後に出てくるのがハイバーインフレ。いまや実体経済の構造がかわってきて、フィリップス曲線もあてにならず、過冷却水が一瞬にして凍るみたいに、何もないと思っていた経済が一瞬にしてとめどないインフレになってしまうかも、ですと。その根拠はまったくなく、経済が変わった不安だわからないを並べた憶測だけ。やれやれ。
結局、ありがちな日銀OBによるかつての日銀擁護論。金融政策では何もできません、実体経済にあわせる以上のことをしてはいけません、というだけの話。
ビットコインがどうしたこうしたというから最近の本かと思ったら2010年の本かよ。もはや黒田日銀後の経済の動きで、書いてあること(昔話とあまりうまくない冒頭の長ったらしい寓話を除く)のほとんどは無意味になった本。これを読んでビットコインについて一切まともな知見が得られると思ってはいけない。XXよ、何考えてこんな本すすめやがった! 飛行機の窓から投げ捨てました。
山形浩生の「経済のトリセツ」 by 山形浩生 Hiroo Yamagata is licensed under a Creative Commons 表示 - 継承 3.0 非移植 License.