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便所の行列にみる「元を取る」現象と悪循環

ネタ

ぼくは基本、行列が嫌いだし、行列に喜んで並んでいる連中はどうしようもないバカだと思っている。先日、かなり長い時間飛行機にのったんだけれど、まず搭乗のときにみなさんバカみたいに行列作りますわな。XXXX人みたいに全財産を手荷物で抱えて乗ろうという人は、まあ収納場所確保のためにがんばって早めに乗る意味はあるだろう(それはそれでバカだと思うが)。でもそうでない人は、並んでどうする? 席はもう指定されてるんだよ? 昔はオーバーブッキングとかあったから早めにすわって席を確保する意味もあったけど、いまはまずない。

そしてまた、席が便所の近くだったんだけれど、これまたみんなすぐ並びたがる。離陸してすぐに便所に行列ができる。そして飯の後ね。その後も何度か波がある。まあ飯のあとは多少は生理現象で仕方ないかもしれない。でもそれ以外のときって、少し頃合い見計らえば全然並ぶ必要なんかないのに……昔は、機内映画をでかいスクリーンでやってみんなが同じものを見ていたので、それが終わるといっせいに便所、という現象があったけれど、いまはそれもないし。少し見て、並んでるなと思えば五分も待てばすぐ空くのに。

そういえば最近、道端カレンがどこかに書いていた。東京駅を出てくると、みんなタクシー乗り場に行列しているけど、道の向こうに渡れば行列しないですぐ拾えるのに、と。なぜわざわざ行列したがるんだろう、と。ぼくはたぶん、その人たちは行列することに喜びを感じているんだろうと思う。自分たちがだれか(自分以外の人)の決めたことに従っていることに、無上の喜びを感じていて、道路の向こう側に行くという自主的な判断を自分でリスクを負ってしないですむことに安心しているんだろうと思う。

高校生くらいの頃、品川駅で乗車口とぜんぜん離れたところに立って本を読んでいて、ふと後ろを見たら、十人くらいが並んでいてゾッとしたことがある。本当にそこが乗り場かどうかも確かめず、だれかがいるからというだけで追随しようという人がこんなにいるのか! 行列するやつはキモチワルイとはっきり思うようになったのはその前後。ちなみに昔、ビートたけしが有名レストランの行列を見て「食い物に行列するのは乞食だけ、と自分の母親が言っていた」と語っていたっけ。かなりその通りだと思う。が、閑話休題。今回の話はそういう方面には向かわないのだ。

で、今回はヴェニスに着いた時にも、荷物が出てくるのを待つ間に、特に女性トイレはやたらに行列になっていたのだった。

もちろん、これは女のほうが男よりも用足しに必要なステップ数が多いので時間がかかるという物理的な原因はあるだろう。そしてまた、明らかに連れション現象がある。グループのだれか一人がいくと「あたしも」「あたしも」で一斉に殺到している。でも、そういえば昔、それ以外にもう一つ説明をきいたのを思い出したのだった。

昔、この話を女友だちとしていたら、彼女の話では、それだけじゃないんだという。もう一つ別の現象がそこには生じているんだそうな。長いこと行列すると、いったん入ったらなるべくそこに長居して、化粧とか身繕いとかあれこれやるだけやって、最大限に使おうとする人が結構いるんだって。せっかく入ったんだし、なるべく使い倒さないと損だというわけ。これは以前別のところで書いた「少しでも元を取ろう」という発想に通じるものがある。するともちろん、その分行列はさらに長くなり、待ち時間も延び、するとみんなさらに長時間使おうとして……

もちろんトイレでできることには限界があるので、この悪循環にも自ずと限界はある。そしてみんながみんなそうではない。「でも、そういう人が結構いるのよ! いつまでたっても出てこないの!」と彼女は憤慨していた。

さて、男だと、特に小便器ではそれは起きない。というのも……他にすることなんてないからだし、また通常は、うしろに待っている人が「さっさと終われ」ビームをこちらの背中に発しているので、なるべくさっさと切り上げようとする(ときどきすごく長い人がいて、感心されると同時にひんしゅくを買っている)。だから男のほうの便所で行列が短いのにはそれもあるんだろう、と当時は思った。

しばらくこれは忘れていたんだけれど、ヴェニスに出かけたときにいっぱい行列を飛行機内外で見て、ふと思い出したのだった。女便所のほうが行列長いので、男女同じだけの便所を作るよりも、1:2くらいで女便所を増やした方がいいんじゃないかと昔から思っていたんだけれど、もしこういう要因が作用しているんだと、何か行動経済学的な手法を通じて、「元を取らなきゃ」滞留時間を減らし、女便所の回転率を上げて、行列も減らして万人を幸せにできるはずだと思うんだが……




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山形浩生の「経済のトリセツ」 by 山形浩生 Hiroo Yamagata is licensed under a Creative Commons 表示 - 継承 3.0 非移植 License.