自然エネルギーが安くなったら:温暖化で結集した環境運動崩壊への序曲

山形浩生

 

クルーグマンこんな記事を書いている

要するに、太陽電池のコストがかなり下がってきて、石油や石炭と張り合えるようになってきた、という話。だからもう変な化石燃料発掘はしなくていいかもしれない、とのこと。

さてぼくはこれに70パーセント賛成だ。ぼくはクルーグマンの議論の中で、石油メジャーがこれをつぶしにかかるかも、といった議論については、陰謀論もいい加減にしろと思う。その部分が15%。そしてもう一つ、石炭とそのまま横並びで比べてもダメ。日が照らないと太陽光は使えず、自然エネルギーの最大の欠陥である安定性が担保できない。それをカバーするには、コストはさらに二段階くらい――あと半値くらい――下がらないと、本当に競争力は出ないだろう。これが15%分。

でも、それ以外はすべて賛成だ。さらにもう一つ、これはロンボルグが長いこと主張してきたことだ、というのも指摘しておこう。いずれ太陽電池は安くなり、それにより石油文明は石油が枯渇しなくても終わり、炭素排出も自然に減る、ということだ。

しかしながら……もしそうであれば、これまで主流だった温暖化否定論者は、自分の過去を否定しなくてはならない。かれらがいっしょうけんめい主張してきた炭素税とか京都議定書とかはそもそも不要だったということだ。そんなものがなくても、安いエネルギー源ができれば人々はそれに切り替え、炭素排出削減などということを考える必要はなくなる。

でも、一〇年前からそう言い続けてきたロンボルグに対して、クルーグマンを含む多くの環境保護論者は、罵倒を続けてきた。京都議定書を否定するとは地球の敵だ、オイルメジャーの走狗だ、といって。でも、そうではなかったことをいま一度落ち着いて考える必要がある。ロンボルグの主張は正しかった。それを罵倒してきた環境保護論者は、決して正しくはなかった。ついでに、京都議定書を離脱したアメリカが必ずしもまちがっていたとはいえない。これは認める必要があるんじゃないか。

次に、もし太陽電池がそんなに安くなって、ちょっと計算できる人はすぐに太陽電池に切り替えるような状況になったのであれば、もはや京都議定書の次だの炭素排出削減だのを考える必要はない。これも否定しようがないことだと思う。COPSなんて今までも無駄だったし、それを推進してきた連中はバカだった。それは認めざるを得ないと思う。ましてそれを今後、金をかけて合意を作ろうなどという議論はすべて愚の骨頂だ。それも認めざるを得ないことだ。

そしてもう一つ。温暖化論者の多くは、「だから文明のあり方を見直さなくてはならない」という連中だった。最近の反原発論者といっしょだ。「経済発展最優先の文明がおかしかった、安い無限のエネルギーを前提にしてはいけなかった、これからはもっと人間重視の文明を」というわけだ。

でも太陽電池が安くなって、石炭よりもコスト効率が高いなら……

安いエネルギーの時代は終わってはいない、ということだ。エネルギーはもっと安くなる。したがって、安いエネルギーを前提とした文明はもっともっと続けられる、ということだ。すると経済成長を否定する理由はなくなる。文明はこれまでと同じ前提で発展を続けられる、ということだ。

さて、ぼくはこれが実に結構な話だと思う。しかし文明発展を否定する口実として温暖化を使ってきた連中にとって、これはとても都合が悪いことだろう。成長を止め、人間らしい生活を――そんなのがまったくのおためごかしだということなんだから。

というわけで、今後温暖化を中心とした環境運動は、次の三つの立場に分かれるはず(本当は四つだが、経済成長を肯定しつつ安いエネルギーを否定するっていう立場がどういうものか、ぼくはちょっと想像できないので)。筋金入りのサヨク残党どもは左上に集まるだろう。でも日和見アームチェアの、新聞メディア知識人に巣くってる連中は左下だ。ぼくはもとから右下で、ここに入る人を増やせればよいと思うんだけど。



そして、この立場のちがいをめぐって、これまであまり考えてこなかった「環境」論者の間で起こるであろう内紛を、ぼくはとても楽しみにしている。内ゲバは得意な人たちだから、すごく醜悪で陰湿なものになると思うよ。楽しみ。

そしてこれは、脱原発自然エネルギー重視とか言っていた人にもあてはまる。孫正義に公共の金をあげなくても、太陽電池はもうしばらくすれば安くなりそうだよ? だったらいま無理してインチキな高い買い取り料金なんか考えなくてもいいのでは? あわててあれこれやるより、研究を重視して自然にコスト低下するのを待てばいいのでは?



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