パルヴェーズ『イスラームと科学』:イスラムの現状批判とともに、もっと広い科学と宗教や規範の関係を考えさせられる。

イスラームと科学

イスラームと科学

イスラム圏の科学はひどい状況にある。中世には、停滞するヨーロッパを尻目に世界最先端だった。でも宗教がそこに介入し、物理法則なども神の意志にすぎないとされ、科学を研究するより、神の意志をコーラン解釈から読み取ることが優先された。そしていまや、一部イスラム圏の「科学」と教育の相当部分は、西洋科学をイスラム経典解釈にこじつけてにこじつけて「イスラム的科学」なるものをでっちあげる行為に堕している――

こうした状況を、世界的な物理学者でイスラム教徒である著者は、深く憂慮し、イスラム社会の大きな停滞要因だと指摘する。だが本書は、イスラム教という宗教を批判するのではない。宗教と科学や理性の領域とを区別しない宗教や規範の野放図な侵入すべてに伴う、普遍的な問題の指摘が狙いだ。イスラム圏の課題理解と同時に、他のどこでも起きかねない事態への戒めとして多くに人に読んでほしい。
(2012/2/26 掲載, 朝日新聞サイト)

コメント

ついつい、イスラムの教義にこうした停滞の要因があるのだ、と言いたくなる人もいるだろうけれど、そうではない。宗教や規範が介入して学問の発達が遅れるのはどこも同じ。ただイスラムの場合、教会の領域とシーザーの領域を建前上は分けられないところに、他より一段ハードルがあるのかもしれない。

しかし、まじめな本ながら、最後のあたりのイスラム的科学の実例を読んでいると笑ってしまう。

そういやこの著者って、かつて田崎さんが紹介していた人だったというのを、後になって気がついた!



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