- 作者: アランマクファーレン,船曳建夫,工藤正子,北川文美,山下淑美
- 出版社/メーカー: 新曜社
- 発売日: 2001/06/25
- メディア: 単行本
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産業革命はなぜ起きたか――ひいてはなぜ西洋は世界に勝ち、ぼくたちは豊かになったのか、という本はもういろいろ読んでいて、石炭の分布だというポメランツ、科学と知識の普及だという山本義隆、イギリスが実質所得が高かったからと言ったのはだれだっけ、制度が云々、金融がどうした、勤勉で生産性の高い遺伝子が広まったからというクラークとか、植民地のせいだとか、イギリスの飯がまずいせいだとか、労働者搾取のせいだとか、もうたいがいの話は聞いたような気がする。この本もその一つ。
この本のテーゼは、人口と医療というか疫病の克服なのね。この本の主張は、イギリスと日本が似たような性質を持っていることに着目し、それをもとに話を進める。
まず、イギリスと日本は島国で、だから侵略がなくて戦争が少なかった。国内で小競り合いはあったけど、その規模は小さかった。んでもって、農業を安定して営めたから、みんな飢え死にしなかった。
さらに、いろんな生活習慣とかのおかげで、伝染病が克服できた。それで、人が死ななくなった。これがまず第一歩。
で、なぜそれが人口増による資源食いつぶしと貧困への逆戻りを引き起こさなかったかというと、みんながバカみたいに子供を作らず、結婚パターンや避妊や間引きで人口成長が抑制された。で、なぜそんなことになったかというと、子供はだいたい3.5人くらいがちょうどいいよ、というコンセンサスが文化的にできていたから。バカみたいに子を増やすと生活苦しくなる、というのがみんなわかってたそうなのね。当時の農家経営とかのやり方から、最適な子供の数というのは決まっていたので、みんなそれにあわせて子供の数を抑えたんだそうな。
それで日本とイギリスはマルサスの罠を逃れました、という。
うーん。
確かにそれはそうなのかもしれないんだけどさ、マルサスの罠脱出で話が終わりじゃないでしょー。だいたいぼくは、まあまあ豊かに暮らした人々が日本とイギリスにしかいなかったとは思えないんだよね。マルサスの罠脱出というのは、しょせん程度問題でしょう。そして産業革命は?それと、人口がどんどん増えたという前半の話と、最後になって人口はそんなに増えませんでしたと言う話とがうまくかみ合ってなくて、まったくピンとこないんだよね。
本の大半は、特に各種の伝染病を日本とイギリスがどう克服したか、という話。それが本文400ページのうち200ページ。それを説明する水とか生活習慣とか排泄物処理とかの話をいろいろな資料からまとめる。それはそれでおもしろい。でも、それで何か産業革命(またはその前段)が説明できました、と言われてもあまり納得ができない。イギリスは13世紀からずっと特異で、その特異性が産業革命につながりました、というのが著者のテーゼだそうで、本書はその特異性を説明するものだというんだけど、その特異性の源が日本と共通なら、日本はなぜ産業革命起こせなかったの?
ぼくが何か読み落としているのかもしれない。読み終わったところで「へ? こんだけ?」と思って関係ありそうなところはたくさん戻ってみたんだけど。イギリスはずっと特異でした、というのは確かかもしれないんだけど、ただどの国でも、見方によってはそれなりに特異な性質を持っているはずだとは思うし、それが何か決定的だったかというのは、少なくとも本書ではよくわからない。
そんなこんなで、ぼくは本書ですごく感銘を受けた感じはしなかった。ポメランツの説明とか、科学技術の話とか、そしてグレゴリー・クラークの遺伝的な説明ですら、ぼくは説得力を感じるんだけど、本書はなんか生煮え。
- 作者: K・ポメランツ,川北稔
- 出版社/メーカー: 名古屋大学出版会
- 発売日: 2015/05/30
- メディア: 単行本
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- 作者: グレゴリー・クラーク,久保恵美子
- 出版社/メーカー: 日経BP社
- 発売日: 2009/04/23
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