内蒙経営策:満州帝国の二番煎じプロジェクト(実はちがう)の全貌

その昔、CUTにこんな文章を書いたことがある。

アゾット/亜素州をめぐる幻想と現実。

かのクラフト・エヴィング商会『クラウド・コレクター』の書評なんだけど、その枕に使ったのが、ぼくの曾爺さんかなんかのインチキプロジェクトの話しだった。

その曾爺さんの一世一代の大ばくちが、大日本帝国の傀儡国家たる満州帝国の成功にあやかって、蒙古帝国ってのをでっちあげて搾取しようという一大計画だった。いろんなお膳立てまで整えて、関東軍とも話がついていたとかいないとか。どっからか傀儡用にフビライ汗の末裔ってのまで見つけだしてきて、擁立の準備は着々と進んでいたらしい。

さてもちろん、これを読んで真に受けた人は、まあいないだろう。そんな変なやつ&変な計画、あったわけないよねー、と。先日、小川哲『ゲームの王国』について、著者&大森望と座談会をしたときにも、この話をちょっと出して、おもしろがってもらえたんだけど、まあ聞いている人もたぶん、あまり気にもせずに流したと思う。

が、この話、まったくの本当なのだ。少なくとも、そういうプロジェクトはあった。うちの曾爺さんの一味は本当にその企画書を書いて関東軍に出している。関東軍がそれをどこまで真面目に検討したかは、知りようもないけれど……

というわけで、その企画書をお目にかけよう。

「内蒙経営策」(pdf, 7.6MB)

書かれていることはなかなかおもしろい。当時のアメリカが権益を求めてモンゴルあたりでうごめきつつ、朝鮮半島独立運動を焚きつけようとしていて云々という前振りのあたりとか(ネトウヨ諸君! エサですよ! 朝鮮独立なんて米帝の陰謀だったんですよ! でも、たぶんこれはマジにそうだったんだと思う。アメリカがそのくらいの工作しないわけないもん)。でもうちの曾爺さん、むしろアメリカの脚の速さや鋭い計算には感嘆していて、「敵ながら痛快」と感心していて、おまえいいのかよ、という感じ。でもそれに対して日本はまるで対応できてなくて、無気力許すまじ、という。んでもって、日本経済は不景気で、銀行共とかがアレで農業も商工も不況で、しかも日本の財界はまったくバカで銅相場なんかで火傷こきやがって、もっとガーンと売ってでて資本に生気を与え(アニマルスピリットってやつですな)この蒙古帝国再興やったら、「水はその低きに就く経済に国境なし」だから世界から資本がなだれこんでウハウハ、優柔不断してねーで、さっさとやろうぜ、という内容。

大正9年だから、1920年ですな。不況回復に一大(公共)事業を、というわけで、1920年にすでに文句なしのケインジアンだったというわけ。さすがぼくの先祖です。いまならリフレ派の旗を強力に振ってくれたことでしょう。で、第1期の資本金1億円がすでに払い込み、とあって、第二期のお金を優先株で調達しよう、というわけ。

もうちょっと具体的な内容がどっかにないのかなー、という気はするが、手元にあるのはこれだけ。なんでもこの曾爺さん、我が家の伝承によればこの計画のためにジンギスカンの末裔というのを見つけてきて(って、モンゴル人全員、たぶん系図をたどればどっかでジンギスカンにつながるはず)、その王位の証たる、蒙古王の翡翠、なるものを手に入れたとかなんとかで、それが実家のどこかにあるとかいう噂が流れて、一時かなり大騒ぎになったけど、何も出てこなかったのは、いまはもう笑い話(のはず)。第1期の払い込み金1億円が、現物で納付と書いてあるのは、たぶんこの蒙古王の翡翠とか、なんだろうねー。

この爺さんの、他のインチキ事業の名残も母の実家のどこかにあるらしくて、いつか見てみたいんだけどねー。

付記

柳下毅一郎より、この蒙古総合自治政府とは関係ないのかと質問がきた。

この企画書は1920年、それに対して自治政府は1936年。曾爺さんが直接関係していた可能性は低いし(1932年に死んでるから)、間接的にも、年が離れすぎてる。関係者が、ヒントを得た可能性はなきにしもあらずだけれど、一方でそんなにオリジナルな発想というわけでもないし、たぶんまったく別物と考えてかまわないと思う。が、もちろんぼくは専門家ではないし、もしその筋のプロが「いやこれぞこの分野で長年論争の的となっていたミッシングリンク!」というようなことがあって、我が家を日本史の片隅に載せてくれるというなら、もちろん拒むものではありません。

付記2

1920年だから、1932年の満州国の二番煎じではないとの指摘があった。言われて見ればそうだ。我が家の中ではそういう前振りで話されるのが常だったので、チェックもせずにそういうものだと思い込んでいた。ありがとう!

内蒙経営策:満州帝国の二番煎じプロジェクトの全貌 - 山形浩生の「経済のトリセツ」

満州国の成立が1932年で、これが1920年の話だとすれば満州国は関係ない

2018/06/05 00:59
b.hatena.ne.jp