キューバの経済 番外編: モンゴル唯一の自販機

うーん、前回かなり気合いを入れたつもりなのに、反応が薄くてがっかりですよ。減価償却ガー、といったあたりですでにかなりみんなの理解力を超えたということなのかしら。

まあ仕方ない。今回は息抜きで、番外編としてコメントできた、モンゴルの自販機の話をしよう。特に何の衒いもない。これがたぶん2000年以来、かなりの期間までモンゴル唯一の自動販売機だったものだ。

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当時、ぼくが滞在している間に、ある日これが突然出現したんだ。そしてたぶん、多くの人はこれを見ても何も感動はないと思うんだ。なんか、自動販売機みたいなものがあって、ちょっと並んでる人もいるねえ。それがどうした?

この写真のおもしろさを理解してもらうためには、モンゴルではコインというものがない、というのを知る必要がある。モンゴルのお金は紙幣だけだ。ではコインなしでどうやってみんな自動販売機を使っているんだろうか?

もちろん、紙幣を読み取るような高級な仕掛けはない。そもそもモンゴルの紙幣は汚すぎて、たぶんまともな紙幣読み取り機は通用しないだろう。それは、この自動販売機の隣にすわっているおばさん(右半分にいる、新聞を保っているおばさんじゃなくて、自販機の隣で白い帽子をかぶってるおばさん) から、トークンを買って、それを使ってこの自動販売機でオレンジジュースを買うんだ。

じゃあ、そのおばさんがいないときはどうなるの?うん。こうやって閉店になる。

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なんか、これまでいろんな人にこれを話して、半分くらいの人しかそのおもしろさがわかってくれないので、結構がっかりしているんだけど…… つまり、人がついていて、トークンを販売しているときしか稼働しないんなら、自動販売機の存在意義がそもそもない、と思わない? 無人で稼働できるのが自販機の強みでしょう? そのおばさんが直接ジュースを売ればすむ話じゃない?

そうやってオチを説明しないと多くの人がわかってくれないんだよねー。

まあ、こんな不合理な代物が長続きをするわけはない。いまの写真は2000年。その後、10年くらいして、ぼくはウランバートルにちょっと戻った。その際に、まさかと思いつつ、この自動販売機のあったところ(なんて、結構目抜き通りなのでわざわざでかけたわけでもないんだけど)にも行ってみた。

そしたら、まだあったんだよ。

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Vending Machine

The only vending machine in Mongolia

さすがに、もう使われてないみたいだったけど。何度か横を通りすぎたけど、おばさんは戻っていないようだった。そして、2017年に戻ってみると、もう消えていた。仕方ないね。

かわりに、財務省の中に自販機はあった。モンゴルでも、すでにQRコード支払いとか、銀行カードのタッチカード決済とかが入っている。それを使った自販機だった。でもそれも、すぐに撤去されちゃったんだよね。

というわけで、この写真に写ったものが、ぼくの知る限り、2000年以来2015年くらいまでは、モンゴルにある唯一の自動販売機だったんだ。それがどうした、と言われるとそれまで。でも自販機なんていうつまらないものですら、コインという一見どうでもいいような「制度」に基づいているんだ、というのを気がつかせてくれた点で、ぼくにとってはかなり想い出深い代物ではある。

では次回、キューバイノベーションの話をしようか、それとも社会主義そのものの話をしようか? まあ乞うご期待ってことで (期待してる人もそんなにいないようで、あまりインセンティブもないけど、まあ一応完結させるためにも、なんか書きます)


クリエイティブ・コモンズ・ライセンス 山形浩生 Hiroo Yamagata 作『キューバの経済 番外編: モンゴル唯一の自販機』は Creative Commons 表示 - 継承 4.0 国際 ライセンスの下に提供されています。