キューバ

ゲバラ『革命の回想』と『革命戦争回顧録』対比

[f:id:wlj-Friday::plain] ゲバラのキューバ戦争記録の邦訳 チェ・ゲバラの本は、同じものがあちこちからいろいろ出て題名も微妙に変わるので、同じものかどうかがわからずいろいろ面倒。以前、『ゲバラ日記』と称して出ているものが8種類もあることについて…

チェ・ゲバラ広島行きの謎、および三好徹『ゲバラ伝』

いま訳しているゲバラ本、詳細なだけあって、とにかくおもしろいエピソード満載ではある。その一つが、1959年ゲバラの来日および広島訪問のエピソードだ。 簡単に背景を。1959年1月、世界の驚きをよそにキューバ革命が成功してハバナは制圧されてしまい、新…

「社会に埋め込まれた経済」で格差を克服?

ポラニー『ダホメ王国と奴隷貿易』、Kindle版にして少しお金稼ごうぜと思って、ちょっと見直しておりました。 cruel.hatenablog.com ポラニーがこの本で言っている「社会に埋め込まれた経済」というのは、ピケティが『資本とイデオロギー』(もうすぐ出ます!…

プーチン大統領と親しくお話をするエドワード・スノーデン (2014)

ご存じかもしれないけれど、ぼくはエドワード・スノーデンの自伝を訳した。 スノーデン 独白 消せない記録作者:エドワード・スノーデン河出書房新社Amazon それなりにおもしろい伝記ではある。まあその後ちょっとあまり楽しくないできごともあったりして、が…

ポランニー『ダホメと奴隷取引』:18世紀ダホメ経済と社会主義はまったく同じ!

Executive Summary ポランニー『ダホメ王国と奴隷貿易』に描かれている17-19世紀ダホメ王国は、市場システムを持たない。国内ではすべての作物を王様が召し上げ、一大宴会でそれを民草に配り、それ以外のわずかな部分を、王が配るタカラガイで、市場で定額で…

オリバー・ストーン『コマンダンテ』:きみ、何しに行ったの? 少しは事前調査とか仕事したら?

Executive Summary 2002年あたりに、3日にわたってオリバー・ストーンがフィデル・カストロに密着したインタビュー映画。 だがストーンは脈絡なく抽象的な質問をするだけ。相手が怒ったり口ごもったりするような質問は一切ない。また質問の答を受けてさらに…

プーチン本その3:『オリバー・ストーン オン プーチン』:ストーンが頼まれもしない反米提灯かつぎをする情けない本/映画

Executive Summary 『オリバー・ストーン オン プーチン』(文藝春秋、2018) は、同名のプーチン連続インタビューシリーズの文字版。2015-2017という、プーチンやロシアをめぐる各種の大きな事件が次々に起きた時代で、本当であればまたとない情報源となれた…

カブレラ=インファンテ『煙に巻かれて』:葉巻をめぐる、愛情あふれるウンチクと小ネタとダジャレ集。気楽で楽しい。

Executive Summary カブレラ=インファンテ『煙に巻かれて』(青土社、2006) は、葉巻をめぐる歴史、文学、映画、政治、その他ありとあらゆるエピソードを集め、さらにダジャレにまぶしてもう一度昇華させた楽しい読み物。著者が逃げ出したキューバへの郷愁も…

ゴルバチョフ『ペレストロイカ』(1987) :あまり中身がなく理念とスローガンばかりだった。

Executive Summary ゴルバチョフ『ペレストロイカ』(講談社、1987) は、ソ連の体制の刷新と解体から、やがてはソ連そのものの消滅をもたらしたという、当時の世界構造の一大変革につながった図書として、いつか読もうと思いつつ果たせずにいた。いま、35年た…

ゲバラ夫人対決! 教条主義イルダ VS ファッション至上アレイダ

Executive Summary チェ・ゲバラは2回結婚している。二人とも、回想記を書いている。 最初の奥さんイルダ・ガデアは、ずっと年上だがペルーで過激派の重鎮だったため追放され、ゲバラをグアテマラとメキシコで急進的なマルクス主義勢力と接触させた人物。完…

ローレンツ『諜報員マリータ』:信じられないほど頭と股のゆるいカストロ愛人

Executive Summary マリータ・ローレンツ『諜報員マリータ』は、カストロの愛人になり、その後殺されかけ、CIAの手先として暗殺作戦に使われて未遂に終わり、その後ケネディ暗殺にも関係していたという、波瀾万丈の女性の自伝。 だが常に股はゆるく、男とす…

メネセス『フィデル・カストロ』:ごく初期の独自取材に基づく批判的なカストロ論

Executive Summary メネセス『フィデル・カストロ』は、パリ・マッチ記者のメネセスによる独自取材のカストロ伝。シエラ・マエストラの山で、通訳なしで直接取材もしていて、非常にしっかりしたもの。彼はソ連系の社会主義団体シンパであり、必ずしもそれに…

 マシューズ『フィデル・カストロ』(1971):提灯持ちと自己宣伝のかたまり。

Executive Summary マシューズ『フィデル・カストロ』は、キューバ蜂起の泡沫勢力でしかなかったカストロたちをシエラ・マエストラの山の拠点に訪ねて取材し、カストロこそが反バティスタの旗手という宣伝に加担したニューヨーク・タイムズ記者によるカスト…

ラフィ『カストロ』:ほぼ唯一のまともな意味での伝記。視点も批判的だが明確で最新。

Executive Summary ラフィ『カストロ』(原書房、2017) は、2021年時点で日本で出ている最新のカストロ伝。他の伝記が公式プロパガンダの羅列にとどまるのに対し、カストロに対するきわめて批判的な視点を元に、一般人がカストロの生涯を見て疑問に思う、革命…

フアナ・カストロ『カストロ家の真実』:カストロ一家は悪くなかったというだけ

Executive Summary フアナ・カストロ『カストロ家の真実』は、フィデル&ラウルの妹が書いた、カストロ一家の内側から見たカストロ兄弟と革命だ。著者は革命に幻滅してCIAに協力し、亡命するに到った人物として、視点は一応は批判的なものとなる。 しかしそ…

宮本『カストロ』:1996年の本で古いし、詳しい年表レベルにとどまる

Executive Summary 宮本『カストロ』(中公新書、1996) は、内容的に公式発表の情報を年表にそってまとめただけ。目新しい視点も分析もないし、キューバ大使だったくせに、カストロ兄弟と直接の接触がまったくなかった模様。しかも記述は1990年代止まり。現代…

コルトマン『カストロ』:多少の留保はつけつつ基本はカストロの公式プロパガンダ通り

Executive Summary コルトマン『カストロ』は、イギリスの外交官が書いたカストロ伝。一応は客観的な書き方になっているが、個人的にカストロと親密だったせいか、きわめて好意的な書き方、というより公式プロパガンダからあまり逸脱しないものとなっている。…

キューバの経済 part 4: 社会主義/共産主義経済の全体像

1. キューバ再び:経済危機のさなか さて久々にキューバにきているのだけれど、キューバはいますごいことになっている。まず、アメリカの制裁がどんどん厳しくなり、各種の船はキューバに寄っただけで嫌がらせされ、キューバへのフライトもどんどん潰された…

おまけ:太田昌国『チェ・ゲバラプレイバック』は、ビリーバー本ながら率直で好感は持てる

チェ・ゲバラプレイバック作者:太田 昌国発売日: 2009/01/01メディア: 単行本 この本は変な本ではある。現代企画室を主宰し、チェ・ゲバラ関連の本をたくさん出してきた太田昌国が、基本的にはゲバララブを貫徹しつつも、擁護しきれず変な妄想に走っていると…

Castaneda, The Life and Death of Che Guevara: 闘争論ならぬ逃走論としてのゲバラ伝?

乗りかかった船なので片づけてしまおう。メキシコの政治学者によるゲバラ伝。 Companero: The Life and Death of Che Guevara (English Edition)作者:Castaneda, Jorge G. VintageAmazon これまたアンダーソンのもの、タイボIIのものと並び、1997年に出版さ…

タイボII 『エルネスト・チェ・ゲバラ伝』:細かいだけで変な脚色だらけ

もうゲバラ系はそろそろやめようかと思ったが、でかいのが残っていたので片づけよう。パコ・イグナシオ・タイボII『エルネスト・チェ・ゲバラ伝』。先日書評したアンダーソン版と同時に出た、でっかい伝記となる。 エルネスト・チェ・ゲバラ伝〈上巻〉作者:…

その他ゲバラ伝・関連本(の主なもの)まとめて紹介

はじめに はいはい、もうでかい伝記は片付いたみたいなので、あとはもう落ち穂拾いで関連書を一気に処理します。いっぱい出てくるけれど、伝記は分厚いのを読む気がないのであれば、マンガ版ゲバラ伝を読むのが必要十分。 マンガ偉人伝 チェ・ゲバラ (光文社…

D. James "Che Guevara: A Biography": 最初期で最も明解な視点を持つ伝記

Executive Summary D. James "Che Guevara: A Biography" は、1969年、ゲバラの死の直後に出た伝記。本書の最大の特徴は、明確な視点と答えるべき疑問を持ち、それをきちんとときほぐしていること。ゲバラの無謀なボリビア作戦の謎を中心に、ゲバラにまつわ…

Anderson, "Che Guevara":壮絶な調査に基づく空前絶後のフェアなゲバラ伝

Executive Summary すさまじく分厚いゲバラの決定版伝記。綿密で詳細な調査とインタビューはとにかく圧巻。キューバで長年暮らして関係者の資料を大量に閲覧、ゲバラ懐柔役だったはずの老練なソ連外交官から、恋する乙女まがいの赤面するようなコメントをモ…

『ゲバラ日記』=ボリビア日記 全種類比較

Executive Summary チェ・ゲバラのボリビア時代の日記、通称『ゲバラ日記』は、邦訳が8種類もある。特に原著の直後1968年に出た5冊は、真木訳を除いて翻訳権がどうなっているのかまったく不明。いちばんありそうなのは、キューバ政府内でもそもそも権利の帰…

キューバの経済 番外編: ノマドの夢と現実

キューバの話は書きかけがいくつかあるんだけれど、なんとなくまとめるところでモチベーションが落ちて放置してある。一つの理由は、コルナイ・ヤーノシュ『不足の政治経済学』を読んだら、ぼくが考えていたような話がすでにかなりきちんと考察されていて、…

キューバの経済 番外編: モンゴル唯一の自販機

うーん、前回かなり気合いを入れたつもりなのに、反応が薄くてがっかりですよ。減価償却ガー、といったあたりですでにかなりみんなの理解力を超えたということなのかしら。 まあ仕方ない。今回は息抜きで、番外編としてコメントできた、モンゴルの自販機の話…

キューバの経済 Part3: 利益は「計画からのずれ」!社会主義会計と投資

前回、キューバ経済に見る「効率性」の考え方のちがいについて述べて、それをもたらす資本や投資の不足を指摘した。今回はその資本や投資の話を…… はじめに: モンゴルの財務諸表 開発援助がらみの仕事で、いろんなところでいろんな変なものを見てきたけど、…

キューバの経済 Part2: 経済の「効率性」とは?――物流と『ザ・ゴール』

はじめに:社会主義の「いいところ?」 前回の、憲法改正の話を書いたら、はてなブックマークに「社会主義のよいところも書くべき」というコメントがついて、ぼくは少し驚いた。えーと、どんなところが「いい」と思ってるんだろうか? 強いて言うなら、格差…

キューバ番外編:Cubacell 携帯での3Gインターネット接続マニュアル

Executive Summary; キューバのインターネット事情はかなり劣悪であり、公園や公共施設付近にある官製 wifi アクセスポイントに、アクセスカードを使って一時間1ドルで接続するしかなかった。が、2018年12月から、待望の3Gモバイルインターネットが開始され…