その他ゲバラ伝・関連本(の主なもの)まとめて紹介

はじめに

はいはい、もうでかい伝記は片付いたみたいなので、あとはもう落ち穂拾いで関連書を一気に処理します。いっぱい出てくるけれど、伝記は分厚いのを読む気がないのであれば、マンガ版ゲバラ伝を読むのが必要十分。

なぜこれだけでいいかというと、ゲバラは写真写りはいいし人気はあるけれど、でも実は一般的なイメージとは裏腹に、かなり単線的な人生で、大した謎もなく、あっさりとんとん拍子にキューバ革命を成功させて名士になっておしまいだから。

流れは以下の通り:

話はこれだけで、それ以外の細部がまるでないのだ。下積みの苦労もない。対立、反目、裏切り、和解、ライバル、競争といったドラマもない。暗躍してだれかを追い落としたり、惨めな敗北から這い上がって勝利をつかんだりもしていない。私生活で、第二奥さんが文化大革命でも起こせばもう少し波瀾万丈だったろうが、周辺の人々もとてもお行儀がいい。思想的に新機軸を出したことはなく、アイドルとしての存在感以上の影響を外国に与えたこともない。

だから、伝記としてふくらませる余地があまりない。ほめる伝記を書きたければ、あらゆるステップについて「純粋だ」「理想に燃えた」「信念を貫いた」と書き立てるしかない。成功しても情熱と理想と信念、失敗しても情熱と理想と信念。そして、あまり深く考えてはいけない。なぜ二番目で社会正義に目覚めたの? そんなゲリラに走るほどの衝撃的な体験って何? ふつう、旅行中にちょっと見ただけで社会正義に立ち上がったりしないよ? そういうことは追及しない。なぜキューバ経済は沈滞したの? ゲバラが純粋すぎ、理想を追いすぎたから、ですよね! その現実的な失敗って何だったの? それも追及しない。コンゴボリビアでは、革命の条件が整っていなかったから失敗したのだ、と言うのが常道なんだけど、それって行く前にわからなかったの? それも追及してはダメ。だから深みは出しようがない。

一方で批判しようにも、やはりあらゆる段階で、理想、信念=現実知らずと批判するしかない。結局、あまりおもしろい伝記にはならないのだ。

あとは信者(特に日本人)が書いたものは、この漫画の中身につまらないヨイショをたくさんまぶしただけ。またキューバ関係者によるゲバラについての雑文集は、公式声明をまったく超えないので読む必要なし。一方で、ゲバラアンチによる罵倒論集は、これまた公式罵倒をまったく超えるものではなく、題名だけ見れば中身は全部わかる。

あと、レジス・ドブレによる本は、当事者としての自分の立場を棚上げしてゲバラの失敗が云々と岡目八目であげつらうくだらない代物。さらに奥さんたちの回想記とか、友人の回想記とか、まあいろいろ出ていますわな。一部は目も通したけれど、いちいちコメントする気も起きない。

以上! これだけわかれば、以下の個々の本の説明なんか読むだけ無駄。物好きだけ先を読んでください。

Piñeiro, "Che Guevara and the Latin American Revolution":キューバ共産党上層部によるゲバラ関連雑文コレクション。

先日、AbeBooksで買ったゲバラ関連の英語本、二つ目はPiñeiro, "Che Guevara and the Latin American Revolution".

Che Guevara and the Latin American Revolution

Che Guevara and the Latin American Revolution

この人はキューバ共産党の赤髭と呼ばれた謎の男で、こいつが書いた伝記となると、なんかおもしろい裏話でも少しは出てくるかなー、と思って開いたとたん。

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伝記でもなんでもないじゃーん。この人がいろんなところで、ゲバラの思い出とかをインタビューや講演なんかで語った話で、基本はキューバの公式声明集以上のものじゃない。細かく読めばいろいろつっこみどころもあるのかもしれないが、そういうのは学者がやってくれ。カストロとの反目でゲバラキューバを追われたのか、と聞かれても「二人は常に補い合う優れた同志でありました」だけだし、「チェは死んではいない! この世に不正あるところ、必ず再びチェが現れる!」って、なんですかあんた、桃太郎侍キャシャーンですか。


CR桃太郎侍 PV

F・カストロチェ・ゲバラの記憶』:カストロによるゲバラ関連雑文コレクション。

チェ・ゲバラの記憶

チェ・ゲバラの記憶

これも、カストロゲバラについてまとめて書いたものかと思ったけれど、まあフィデル・カストロがそんな暇なわけはないよね。上と同じで、様々な機会にゲバラについてカストロが書いたものや講演をまとめた本。ゲバラは、属国の分際をわきまえずにあちこちでソ連の悪口を言ったりして、カストロもフォローに苦労した面はあるけれど、その一方でゲバラが自分の(立場上言えないことを)代弁してくれた面もあったようで、もちろん死んでからはチェ・ゲバラキューバ有数の輸出産品になったこともあって、悪口はまったくない。とはいえ、目新しいこともない。同志よ、仲間よ、米帝ども許さん、この世に不正のあるところ云々。

個人的におもしろかったのは、『ゲバラ日記』=ボリビア日記をめぐるカストロの発言。ゲバラの死がボリビア政府により発表され、アメリカもそれを確認していて、キューバとしてはいったいゲバラボリビアの山の中で何をしてたのよ、というのを説明せざるを得なくなった。だって悪質な内政干渉で政権転覆支援だもの。だからそれまでは、カストロはずっと(ソ連や他の共産主義政府との関係から)ゲバラがそんな対外工作していることは隠していたんだけれど、急に自分たちを正当化しつつ、むしろゲバラが殺されたほうが陰謀であるかのような、論理のアクロバットを余儀なくされた。

そこで利用されたのがゲバラの日記。これはもちろんボリビア政府が押収し、CIAもコピーを得ていたんだけれど、キューバは自分たちの息のかかった大臣を使って実物を入手、「米帝やその走狗共による歪曲を許してはいけない、これを公開してゲバラの遺志を世界に伝えるのだ、それを米帝どもはインチキなのを出して阻止しようとした! ニセモノだとデマを流した! 我々はゲバラの最期の声を世界に伝えるぞ!」みたいな変なプロパガンダを展開する。それで、カストロのこの文章では、自分たちはちゃんと著作権も明確にし、テキストクリティークもして発表したのだ、アメリカの資本主義企業どもは、それを勝手に別ルートで刊行しようとしてゲバラの遺族にコンタクトしたが、ゲバラ一家はそんな悪辣な企みには乗らなかった! という話が延々続く。

うーん。それにしては、日本で何種類も翻訳があるのは、いったいどういうことなのか、というのは未だによくわからないところ。が、プロパガンダ面でのあの日記の重要性はよくわかる。

あと、『ゲバラ日記』に収録されている「必要不可欠な序文」もこちらに再録されている。この序文は、各種ある翻訳の中でここに入っているのがいちばん読みやすく、他でまちがっているところも正しく訳せている。

後は追悼文とか、死体が戻ってきたときの演説とか。新しい発見は何一つないと思うよ。

『マンガ偉人伝 チェ・ゲバラ』:とてもしっかりしたゲバラ伝記

ゲバラの生涯を手ごろな漫画にした本。冒頭で指摘した、ゲバラの人生のつまらなさをマンガにしたことで埋め合わせ、ダレずに読ませるし、記述の浅さがあまり気に障らず、ささっと流せてお徳用。本当に、ざっとゲバラの生涯を教養程度に知りたいなら、これで必要十分。日本語で出ている他の本からはこれ以上の有意義な情報はあまり得られない。

伊高浩昭『チェ・ゲバラ:旅、キューバ革命ボリビア』:フェアだし多少は独自取材もしているが、詳しい年表どまりなのが惜しい

最初これ、アンダーソン本の後に読んだので、中身が薄いなあ、という印象になってしまったんだけれど、二度目に読んでそれはフェアではないなと思った。よい本です。新書なので、そんなに詳しくはないが、冒頭に書いた通り、そんなに詳しくできるほどの材料がある人物ではないので、別にそれが悪いというわけでもない。書きぶりは、ゲバラシンパながらもそんなにベッタリの盲目的崇拝でもなく、革命後の粛清についても触れ、産業政策の失策ぶりについても他人に責任を転嫁することなく、またその後のアルゼンチン、コンゴボリビアの失敗についても、しっかりその失敗を指摘するだけのフェアな書きぶり。彼の『ゲリラ戦争』についても、その中身よりはテロ教練の系譜を示すものとして意義があると指摘しているのは、まあ納得できるところ。

単純な伝聞ではなくアレイダ・マルチ(二人目の奥さん)とかにインタビューはしていて、ゲバラのスローガンとして有名な ¡Hasta la victoria siempre! というのが、実はそんな発言はしておらず、ある文章を勝手にカットアップしてカストロが捏造したのだ、という証言を得たというのがおもしろいくらい。あと、アンダーソンの伝記でも触れていない、愛人がいて隠し子もいた、という話もきちんと書いている。

不満は、生まれて死んでそれでおしまいで、結局ゲバラが世界にどう影響を与えたかについての記述がまったくないこと。ゲバラが死んで半世紀。結局彼の遺産とは何なのか、そしていまの偶像としてのゲバラはどう評価されるのか——2015年の本であれば、それについてはある程度の考察と結論がいるんじゃないか。いまのこの本だと、まあフェアながらも詳しい年表・他の伝記の要約版に終わってしまっている。それはちょっと残念ではある。たかが新書にそこまで期待していいかというのはあるが、ぼくは新書だからこそ、細部にはまらず俯瞰する視点が持てるのではと思うんだ。が、それは無い物ねだりかね。ゲバラについてきちんと知りたくて、マンガでは沽券に関わるというのであれば、これを読むといいと思う。

三好『チェ・ゲバラ伝』:熱意は買うがしょせんは信者の信仰告白

チェ・ゲバラ伝 増補版 (文春文庫)

チェ・ゲバラ伝 増補版 (文春文庫)

三好徹は、ゲバラ好きが高じて、スペイン語を勉強して彼のボリビア日記やキューバ革命日記を訳してしまうという人間なので、まあゲバラのことをちょっとでも悪く書くはずもない。キューバにでかけ、あちこちでいろいろ人に話を聞いているが、目新しいことは出てこないし、著者が前のめりすぎて鬱陶しい。それを熱っぽく迫力に満ちた文だと思う人もいるんだろうねえ。

たとえば、ゲバラが革命直後にやった前政権関係者の大粛清については、触れてさえもいない。工業省での無能ぶり、産業政策のダメさ加減についてもほとんど触れない。外国が砂糖を買ってあげなかったのが悪い、というだけ。また、来日時の話がやたらにでかい(他の伝記では半ページほど)。が、それも日本にゲバラが売り込みにきたとき、キューバ製品(=砂糖)を買えと言われて、日本側がまあ貿易は双方向だからそっちも買ってよね、と答えたのに対して、認識が足りないとか、当時はナセルやチトーやネルーに比べて扱いが低いが、いまや歴史の評価は逆転したとか。いやあ、政治家としてはどう考えてもナセルやネルーのほうが上でしょう。

Fontava『Exposing the Real Che Guevara: And the Useful Idiots Who Idolize Him』:キューバ革命は失敗だったのに欧米知識人がそれを祭り上げているという本

題名通り、本当のチェ・ゲバラなんてろくでもないやつで、残虐で、傲慢で、無能で、キューバ経済を破壊して人々を貧窮させ、人民裁判で虐殺を実行し、核ミサイルで米帝を破壊しろとわめきたてたヤツなのに、西側の知識人や馬鹿な映画スターたちは、当初からゲバラを英雄視してやたらにありがたがって、どうしようもないぜ、という本。題名通りで、それ以上のものは何もない。

これまた別の意味で目新しさ皆無ではある。欧米での受容についていろいろ触れてあるのが特徴。