ローレンツ『諜報員マリータ』:信じられないほど頭と股のゆるいカストロ愛人

Executive Summary

マリータ・ローレンツ『諜報員マリータ』は、カストロの愛人になり、その後殺されかけ、CIAの手先として暗殺作戦に使われて未遂に終わり、その後ケネディ暗殺にも関係していたという、波瀾万丈の女性の自伝。

だが常に股はゆるく、男とすぐに寝て二股三つ股かけて、しかも諜報員として作戦行動を何一つ成功させたことがないくせにあちこちに参加して、それでいて自分が有能と思っている人物の話。政治的背景とか思想、人間関係、その他まったくといっていいほど洞察力や観察力はなく、目の前で見たことをそのまま羅列するだけなので、読んでも得るものは何もない。


マリータ・ローレンツ。ドイツ人で、19歳のときに父親が船長をつとめる客船でキューバに行き、カストロの愛人になり、子供を産まされて殺されかけ、その後CIAに、カストロ暗殺のために雇われるが失敗、その後ピッグス湾作戦でケネディに見捨てられたことを恨んだ対キューバ工作のCIA要員による、ケネディ暗殺計画に関与して、公式に下手人とされているオズワルドとも接触があって、その後はベネズエラの亡命大統領マルコスの愛人になり、これまた子供を産んで、その大統領が政治取引でベネズエラに送還されるとそれに会いにでかけてつかまり、あれやこれや。

そんな女の自伝ですわ。

波瀾万丈の人生を送った女なのは確か。が、この伝記を一読してわかるのは、なんとも頭と股のゆるい女だということ。カストロには、会ったその日に惚れて愛人になりセックス三昧。

当時のカストロにカリスマがあって、もてたのは事実らしい。アメリカの大女優エヴァ・ガードナーカストロにベタ惚れで愛人になっていたが、若いマリータに乗り換えられて逆上し、ハバナヒルトンのロビーで出くわしたときにマリータはビンタをくらわされた、とかいう笑い話が出ている。

https://upload.wikimedia.org/wikipedia/commons/1/16/Ava_Gardner_barefoot_contessa.jpg

妊娠するが、カストロとしてはこんな愛人がそこらをうろつくのは都合が悪いので、ハバナヒルトンに幽閉状態にして、でも子供だけは欲しかったらしい。出産時も放置でカストロに殺されかけて、腹の赤ん坊を奪われたときは、薬漬けでもうろうとしていたので、状況をろくに覚えていない。

ちなみに殺されかけて子供を取られて彼女が泣きついたのが、カミロ・シエンフエゴスで、彼は本当にいい人で親身になっていろいろ手配し、カストロにも苦言を呈して、彼女が消されずにすんだのは彼のおかげである可能性が高いとのことだけれど、マリータ当人はそれがまったくわかっていない。

その後CIAは、そんな目にあったならカストロに恨みがあるだろうと彼女をカストロ暗殺に利用するんだが、やっぱり彼を愛してるわ、で未遂にすらならず、何やら殺す死ぬサギの愁嘆場みたいなのを繰り広げた挙げ句にまたカストロとセックス三昧、カストロはもちろんそれをプロパガンダに使って、そのまま放置。

んでもって彼女を利用したCIAの対カストロ工作の連中は、キューバにいる彼女を使って、ケネディ暗殺要員を訓練する中に交じり (いや、なんでこんな実績もない無能な人間を入れたのかまったく不明)、途中でそれも足ぬけしてフロリダで何やら遊んで暮らしていたら、カストロに興味のあった、ベネズエラの亡命大統領が声をかけてきて(彼はカストロ嫌いで、カストロの女を自分の愛人にしたらカストロへのあてつけになると思っていたそうな)、彼女はそれにホイホイ応じて抱かれ、すぐに妊娠。

まあこれだけ見てもヤバい(悪い意味)女なのはまちがいなく、CIAに監視されつつフロリダにいたり、ニューヨークにいたりするんだが、いつも二股三つ股かけて男べったりで、なのにその男はギャングだの強盗だのろくでもない連中ばかり。CIA監視のおかげで、そういう連中のはびこる環境にいることになったのか、あるいはこの女がそういう連中を引き寄せるフェロモンを出しているのかわからないが、あまりの節操のなさに倒れそう。そしてすぐに結婚しては離婚。やれやれ。

んでもってベネズエラ元大統領が本国送還されると追いかけていくんだが (何のために? よくわからない)、すぐにつかまって牢屋で愁嘆場、釈放されるんだが飛行機でジャングル見物しているときにそれが墜落、そこにいたヤノマミ族につかまってしばらく世話になるんだが、そうするとそのヤノマミ族の男がその巨大な男根をそそりたたせて迫ってきて、彼女は貫かれて(いや自分でそう書いてるのよ)熱い愛を交わしているうちに、CIAが連れ戻しにやってきて、すると今度は大きくなった娘がなにやらJFK暗殺関係者を殺そうとしてつかまり云々かんぬん。順番逆だったかな? でも、もうどうでもいいや。

最後はまたカストロに会いにでかけて、奪われた息子とも再会したところでおしまい。いまはどこか田舎に引退しているそうだけど。

いやはや。とにかくどこにいってもやたらに男遍歴ばかり。頭もゆるく、股もゆるい。スパイとして作戦遂行力もまったくなく、何かをまともにしおおせたことも一度たりともない。正直、JFK暗殺を計画していた元CIAのフランク・スタージェスなる人物が、対カストロでも対JFKでも彼女のハンドラーになっているんだけれど、なんでこんな明らかに頭のおかしい無能な女を何度も使おうとしたのか、全然理解できなくて、ひょっとしてこの男も二股三つ股かけられてたのでは、と勘ぐるレベル。

ちなみにこのスタージェスのチームにいた他のメンバーは「なんであんな女がいるんだ」とものすごい不信感をあらわにしていたそうなんだけれど、そりゃそうだ。でも彼女から見ると、それは何やら女性蔑視と、射撃や訓練を何でもすらすらマスターする優秀な自分への嫉妬だそうな。はいはい、そうですか。

当人が書いていてこの調子なので、たぶん実際に第三者が見ると、このマリータ・ローレンツ当人がめちゃくちゃで、なんでも自分は悪くないで人に責任なすりつけ、陰謀論にすがり、なまじCIAやカストロと関係あるもんだから、その陰謀論が決して無根拠でもないという始末に負えない状況になっているだけの女だったということになるんじゃないかなあ。

政治的背景とか思想、人間関係、その他まったくといっていいほど洞察力や観察力はなく、目の前で見たことをそのまま羅列するだけなので、読んでも得るものは何もない。

この「自伝」を何やらフィクション仕立てにしたのがこの「カストロが愛した女スパイ」だけれど、特に見るべきものはないので見なくてよいのでは。