ノーベル経済学賞2020 トトカルチョ

最近、ニコ動のノーベル経済学賞予想がなくなってしまって、真面目なトトカルチョをしなくなったのであれだが、FBで聞かれたのでちょっと考えて見た。

が、どうだろう。まずノーベル賞そのものは、科学系以外のものはどんどんおかしくなってきていると思う。ノーベル平和賞を何もしてないオバマにやるとか、あまりにひどかったし、文学賞ボブ・ディランだの一回休みだの、ありゃなんですか。次におかしくなるのは、絶対経済学賞だと思うんだ。

だから平和賞をWFPにやったりしたみたいに、世界銀行に! とかIMFに! とか言い出したらいやだなー、とは思っている。が、そこはスウェーデン中央銀行が選んでるはずなので、そこまでバカなことはするまい、と信じている面もある。

で、去年のデュフロ&バナジーで、「そろそろ歳寄りの在庫処理で受賞者決めるのやめるからねー」というメッセージが出たと思う。その一方で、まあ歳寄り全部ハブるのもどうよ、という配慮もあるはず。するとどんなあたりだろうか。

自分で言うのもなんだけど、2017年の予想はいまでも結構いいと思っている。

cruel.hatenablog.com

具体的には、この表ですな。

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上の方は死んだ、ローマーは取った、ノードハウス取った、ワイツマン死んだ。環境やゲーム理論や契約理論とか、ぼくの知らないあたりはしばらく前に終わってる。すると、マジで生産性のジョルゲンスン/ゴードン、新ケインズ派に花を持たせる感じでブランシャール/サマーズ/フィッシャー、金融組でバーナンキやテイラーあたりがくるんじゃないかなー。あと、アン・クルーガーとかあってもいい。ジャネット・イェレンも忘れてたか。

分野で言うと、そろそろ経済地理とか地域経済学みたいなのが来てもいいと思う。クルーグマンが取ったからないんじゃないか、みたいな説もあったけれど、もう少し明示的に持ち上げていいはず。藤田昌久とかベナブルスとか……どうかなあ。単独では弱いかなあ。でも、こういう方面がそろそろ光あたってもいいんじゃないか。都市研究でも、いきなりマイケル・バティとかきたらひっくり返るが、まあそれはないか。

 

歳寄りの在庫処理はやめる、という観点からすると、2020年代のどこかでピケティはくるでしょう。新新貿易理論のメリッツは、もらえないわけがないと、自分も他人も思っているでしょう。アセモグルは、もらえないはずがない。ヤバイ経済学のレヴィットも、もう少しで当確ライン……いや色ものすぎるかもしれない。あとはだれだろうか。統計分析を発展させたとかで、Rやgretlの開発チームがもらったりしないかな。まあそういうほうには行かないか。少なくともこの人たちは、若手は去年やったからということで、今年はないと思う。選定委員会がよほど強い若手重視メッセージを出したいのでない限り。

 

もう一つ、分野とかちょっといろんなバランス配慮から言うと、そろそろ中国系の経済学者はだれか取っておかしくないはず。が、あんまり知らないので、誰というのがなかなか……

誰かがデヴィッド・カードと言っていて、うーん。労働系かあ。するとゴールディンとかカッツとかも入ってくる? うーん。こういう労働系って地域性が出すぎてつらいと思うんだよなー。デヴィッド・オーター……うーん。ノーベル賞あげたい感じではないなあ。

また、いつかビッグデータっぽい話も含める形でハリ・ヴァリアンとかも考えないと。機械/AIと経済みたいなあたりで、さすがにぶにょぶにょそんはないだろうけど、2030年代にはだれかくるなあ。アントン・コリネックとか、うまーく立ち回れば何かのまちがいで井上智洋……(もう三段くらいいまの考察を深めれば、まったくあり得ないわけではないと思わなくもない日もないわけではないくらいの感じだけど)。でもこないだ見た「AIと経済」みたいな論文集がクズのかたまりだったので、ホントなにかうまく展開できれば、いろいろあると思うのだ。

あと、神経経済学とかピコ経済学とか、経済行動の脳活動的な基盤を探るような話も、どっかで何かしら誉めておいてあげないと。エインズリーとか、脳の報酬系を調べてるような人、さらに文化的な価値観の差みたいなのをつついている人。こういうのはもうちょっとメジャーになるべきだと思うし、なんかブレークスルーが出てくればすぐ取れるんじゃないか。が、具体的に思いつかない。これを含め大きめの体系化みたいなことを考えてるらしき、ボウルズとかギンタスとか、もっとほめてあげたい感じだけど、ノーベル賞ほどではないかなあ。

 

ということで、2020年の山形予想は

  • 本命:ジョルゲンスン/ゴードンの生産性研究

  • 次点:バーナンキとテイラーで金融系のバランスを取る

  • 穴馬:経済地理のだれか

てな感じ。(と書いたところで、そういやジョルゲンスン生きてたっけ、とあわててチェックしたら存命中。でも90近いのか……) さて当たりますかどうか。結果は月曜日、10/12に!

 

あと、ぼくほど軽薄ではない予測として田中秀臣のものも、いまだに有益。そうですねえ、ディキシットとか忘れてたなあ。バロー……そうだなあ。そうすると、サラ・イ・マーチンなんてのも視野に入ってくるとか? どうでしょう。

tanakahidetomi.hatenablog.com

追記:(10/11 17:00)

日経がノーベル賞予想を日本の経済学者にきいて、なんか実証的な話になるんじゃないかみたいなことを言っている。

www.nikkei.com

今後の経済学が、実証っぽいほうに移行するだろう、でかいモデル構築みたいな話はもうおしまいだろう、というネタは以前はクルーグマンも言っていたし、まあその通りなんだろうとは思う。たぶん、日経の質問に答えた人々は専門の経済学者だから、そういう流行に乗っかって返事をしたんだろうし、たぶんそういう考え方もある。

ただその一方で、素人的には必ずしもおもしろい方向性ではない。この日経の記事に上がっているような研究者でも、巧妙に自然実験的な状況をみつけておもしろい知見を出しましたとか、国勢調査の個票分析しましたとか、重要な話ではあるんだけれど、器用で目の付け所は巧みというレベルであって、限られた世界の限られた知見に空いていた穴を埋めましたというものにとどまる印象がある。『エコノミスト』の最近の経済学の話題、みたいな記事で十分。トンチ一つでは一休さんにはなれないのよー、というところ。

たとえば、ロバート・ソローでもドーンブッシュでも、ジョージ・アカロフでもジャネット・イェレンでも、いま60歳以上の人々は、その個別分野を超えて経済全体についての何らかの知見を持っているだろう、という感じはする。もっと若手でも、上で挙げたバナジー&デュフロでもそれはある。ピケティたちも。少なくとも世界の状況について何か考えてるな、という気はする。でも、こう言うと悪いけどゲーム理論系の人々の半分くらいとか、細かい実証系の人々とか、あまりそういうでかい視点を持っていなさそう。特定の分野、たとえばアメリカの最低賃金、統計分析技法、あるいは最近のベイツ=クラーク賞の人だと、ちょっとしたインフラが貿易に与えた影響の調査とか、確かにパズル的にはおもしろいんだけれど、この人にたとえばCEAの議長やらせて安心だろうか、とかIMFでも世銀でも主任エコノミストやらせて大丈夫か、とか考えると……不安、というより無理だろう、という感じの人が多い。

自分の狭い専門領域を出た瞬間、まったくとんちんかんな素人以下のことをZ省に操られてペラペラ口走る人が日本では結構いた/いるけれど、それと同じ。経済学者だからって、経済のことがわかるとはまったく信じてはいけない人々が増えている。ぼくは、スウェーデン中央銀行の知見をある程度は信じているので、実証方面の重要性と同時に、それを捕らえる理論的なフレームまで含めた何か、あるいはその実証そのものが理論的な枠組みまで変えるようなものがある学者が重視されるとは思う。バナジー&デュフロはまさにそうだ。ピケティは格差データの収集でまさにそれをやったから、絶対来る。でも日経の候補で挙がっている人たちは、なんかそういう方面は薄い印象がある。ラジ・チェティとか、おもしろいんだけどねー。

じゃあそういうのでだれがいるの、と言われると、田中秀臣がどこかのツイートで指摘していたように、ぼくもちゃんと押さえていないよなー。エレーヌ・レイとか? ちょっといまからネタを仕込まないと。でも、なんだかんだ言いつつ、それはぼくの怠慢という以前に、全体にみんな小粒な印象はあるのだ。

という点で、明日はぼくはそんなに実証系がくるような気はしないんだが、どうだろうねー。後出しジャンケンになるとずるいので、この件はこれで加筆終わり。もういじりません。

追記:(10/11 19:30)

書かないといったが、一つだけ。頼むから今年、大番狂わせのピケティってのはやめてくれー。『イデオロギーと資本』急がされたら死ぬー。来年なら余裕ですから。

追記:(10/12 18:50)

結果はミルグロムとウィルソンかー。あまり知らない分野なので挙げなかったけれど、ぼくでも名前くらいは知ってるし、まあ順当なところですな。田中予想にも日経予想にも入っていたし。でもウィルソンあまり知らないや。