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落ち穂拾いの感想文

いくつか読んだけど感想書いてないしどっかで採り上げる感じでもないものについて簡単に羅列。そういうものなので、あまり大プッシュ的なものはないけど……

移民の経済学:だいたい予想通り

移民の経済学

移民の経済学

題名通りの本で、ほとんどアメリカを中心に移民の影響として懸念されているものについて、様々な論者が検討したものをまとめた論集。移民がくると職が奪われるとか、移民がくると賃金下がるとか、移民が来ると文化侵略されるとか、移民だと福祉負担がとか、その手の話を検証したもの。

ただ、こういう話を経済学者がやると、だいたい結論は読む前から予想がついて、その予想をはずれるものはあまりなかった。基本、自由貿易の話と同じで、経済学の基本は市場に任せろ、介入するな、長期的にはすべてオッケー、というもの。移民についても、だいたいそういう話。移民来ても、職は奪われない。賃金も一部を除けばそんなに下がらない。文化侵略もそんなになさそう。福祉も長期的には問題なく、いい面もあったりするかも。高技能者やお金持ちだけきてもらうような、移民ポイント制みたいなのは一部の不安に応える意味でいいかもねー。なんかそんな話になってる。

それはまあわかる。トランプの、メキシコ国境に壁を作れとかいう話はだいたいこれでナンセンスなのはわかる。でも、それがナンセンスなのは、この本を読む前からわかっていたことだ。そして、この本の著者たちの言うとおり、人もモノも(明示はされないけど)お金もすべて自由に流通しろということになったら、基本は国という概念自体が非効率ということになる。でも、EUの現状見てると、あわてて国を実質的に廃止してもあまりよいことはなさそうだ。最適通貨圏にあわせて国境を常に調整しつつ、みたいなことができたらいいのかもしれない。でも、それにしても国とか社会的なまとまりとかいうのは、まったく考えなくていいのかなあ。

それともちろん、いまのEUみたいにシリア難民/移民やアフリカ移民が数百万人単位で押し寄せるのも本当にいいんですか、というのは考えねばならない。いまそれなりにインフラも職も余裕があるところに、その範囲内の移民がやってくるのと、そうでない場合とでは話がまったくちがうだろう。この本の中でも、移民慎重論の学者の説が紹介されていて、アメリカの最適な移民はいまの3分の1くらいのペース、とされている(あくまで伝聞的な紹介にしかなっていないのが残念)。こうした、最適移民数とかを考えてもらって、それに基づいていまは多すぎるとか、いまはもっと増やしていいとか言わないと、まともな議論にならないわ。移民がいいか悪いか、というデジタルな話ではないはず。でも本書はそれはあまりできていない。

監訳者藪下は、本書を紹介して「移民はプラスだウェーイ」という紹介をしている。でもそれでは結局、議論はまったく深まらない。トランプ流のいい加減な話といっしょだ。移民はどんな量でもどんな形でもまったくマイナス面はなくいいことずくしなんですか? そんなはずはない。短期で無理すれば歪みは出てしまう。それをどう抑えつつ移民を入れていくのか、というのが重要なはずだし、それを示すことで移民反対はだって納得しやすくなるはずなのに。

toyokeizai.net

経済学的に見た移民の基本的な考え方を把握する意味ではいいんだけど、でもそれ以上にはなっておらず、うーん。悪い本ではないけど。

情報戦のロシア革命:むしろスパイ列伝

情報戦のロシア革命

情報戦のロシア革命

ロシア革命をめぐる各種の諜報活動について、いろいろ情報公開の結果としてわかってきたので、それをまとめたもの。実は表で公表されていたのとはまったくちがう、非道な合従連衡が……というようなことはあまりない。本書はそういうマクロな話よりは、むしろマクロな部分はすでに解明されている通りで、その背後でどんなスパイたちがうごめいていたかを述べる。スパイと言っても、もちろん007が活躍するわけではなく、外交官とか、もっと多いのはプロパガンダに利用されていた共産主義シンパの(バカな)インテリどもや色仕掛けにはまった連中とか。

チャーチルの妹とか、お調子者のバカなアーティストで、やめろと言われてるのにロシアにでかけてトロツキーたちに取り入ってみたりとか、あちこちで女の子をたらしこんでは情報を集めていた外交官、単細胞バカで情報流すとすぐに騒ぎ立てた西側軍人、勝手に共産主義に思い入れて、頼まれもしないのにそのプロパガンダをやってあげた、バートランド・ラッセルとかH・G・ウェルズとかアーサー・ランサムとか。そいつらの(余計な)入れ知恵で多少は西側諸国の対応が変わったりする面もありはした。でもそんなに大きな影響ではない。

ロシア革命の細かいところに関心ある人は読むとおもしろいとは思う。たださっきも書いた通り、それで大局が変わるわけではない。

アーサー・ランサム自伝:仕掛品じゃねーか!

アーサー・ランサム自伝

アーサー・ランサム自伝

上の『情報戦のロシア革命』に頻出し、最もお調子者のバカなロシアの提灯担ぎとして描かれているのが、かのアーサー・ランサムアーサー・ランサムといえば、名作『つばめ号とアマゾン号』シリーズで有名な、のほほーんとしたブルジョワだと思っていたので、それが社会主義なんかに入れあげていたというのは本当に意外だったので、そこらへんの事情がわかるかと思って読んで見た。が……

これさあ、ランサムは本当に断片的にしか書いてなくて、それを苦労してまとめただけなのね。しかも、昔の学校時代の恨み辛みとか、就職できずに苦労した話とか、そういうのばっか書いてあって、肝心な話が何も出ていない! どうやって社会主義にはまったのかとか、ほんと軽くしかないし、さらにはランサムが死んじゃったから、『つばめ号とアマゾン号』のところにさしかかる前で話が終わってる! なんだよこれは!こんな仕掛品を出さないでほしいよ、トホホホ……

ぼくのエア:ぼくにはいらない本

僕のエア (文春文庫)

僕のエア (文春文庫)

Cakesの連載で、海猫沢めろんに会って話をしたというネタを書いた。中央線の中でオカルト話をきかされた、と書いたんだけれど、そのオカルト話というのは、この本の解説で海猫沢めろんが書いている内容の詳細版だった。話をきかされて、「ここの解説にも書いた」と言われたので、読んで見ようと思いました。が、電車の中で聞いた話のほうが濃かったなあ。

で、ついでに本体も読んで見たけれど、ニートが妄想こじらせて騒ぐ話。海猫沢解説の最後で、本書の痛みを感じられない人は、本書を必要としない幸福な人だ、と書かれているけれど、情けないという意味で使われる「痛い」ならまあ感じられないでもない。でも痛切な共感という意味なら、ぼくはまったく感じられなかったので、つまりぼくにはそもそもこの本は必要なくて、幸福であるということなんだろう。