楊『毛沢東大躍進秘録 』:うー、長い。

大躍進の実態について、地方部のいろんな記録を漁って精度を高めたもの。もんのすごく分厚くて細かくて長い。各地の飢餓の実態、人肉食の横行、人々の怒りと悲しみ、幹部たちの保身、記録や報告の改ざん、中央の無策と現実逃避、毛沢東の「指一本のまちがい」強弁、そしてその一方での食料輸出など読んでいてひたすら暗くなるしかないし、それをこれだけの本にまとめた著者の努力は立派。大躍進分析の精度には大きく貢献したはず。

ただ一般読者(もちろん毛沢東信仰にはまってない人)で、少しでも中国史に関心のある人は、概略は知っての通り。大躍進のまったく目新しい部分が見えてくるということはない。資料としては労作で研究者向けかな。

本当は、しばらく前に邦訳の出たディケーターの大躍進本と比較して記述のちがいをチェックとかもすべきなんだろうが、特に齟齬があるようにも思えなかったし、書きぶりも似ているように思う。この楊のほうが、一家を失った個人的な怒りに強く動かされているし、またディケーターの使えなかった各種資料やインタビューを大量に使っているという意味では迫真性を持つはずではある。どっちかというなら、こっちを読んだほうがいいってことになるのかな。でも、これを有効に利用できる人は、紙面で紹介するまでもなく到達するはずだと思う。



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