しばらく前、といってもコロナ前だからはるか昔のように思えてしまうけれど、かのエドワード・スノーデンの自伝を訳したのでした。NSAに気がつかれないよう、原文はタイプ原稿コピー、著者名も偽名、これについてネットで絶対話をするなという条件つきで、しかも少し急かされたこともあり、なかなかおもしろうございました。
- 作者:エドワード・スノーデン
- 発売日: 2019/11/30
- メディア: 単行本
さて、この本には訳者解説はない。でも実は、事前に有識者に送ったレビュー用の見本版には、訳者解説があった。そして、出版社が販促用に作ったページにも、一時は訳者の解説が全文掲載されていた。
それがなぜ上のページから削除され、実際の本からも訳者解説が消えたのかというと……スノーデン側から物言いがついて、なんでもあの訳者解説はスノーデンに対して disrespectful であるから消せ、と言われた、とのこと。
もったいないので切り刻んだバージョンを販促用の記事などに転用したけれど、全文がお蔵入りになるのもつまらないので、ここにアップロードしておく。
スノーデン自伝 訳者ボツ解説 (470kb, pdf)
さて、いったい何が「disrespectful」と判断されたのかはよくわからない。スノーデンの書いていることを鵜呑みにする必要はない、と書いた部分だろうか? NSAがスノーデンの書くほど壮絶なマルウェアを普通のトラフィックに載せて、だれのマシンにでも仕込めるというのは本当か、と書いた部分だろうか?
そもそも、スノーデンが(一時日本にいたとはいえ)あの訳者解説を自分で読んだようには思えない。少なくとも自伝の中の記述によれば、ひらがなは読めるし簡単な話くらいはできるらしいけれど、この文をスラスラ読めるはずはない。では何が起きたんだろうか。
あくまで憶測ではあるんだけれど、ぼくはたぶん日本のだれかがスノーデン側に、何かをご注進に及んだんじゃないかと思っている。でもわざわざだれが?
もちろんぼくを嫌っている人は多い。日本のケインズ関係者にはずいぶん恨まれているようで、全然関係ない本のアマゾンレビューにまでケインズ訳の罵倒が出てくる。その他あの人とかこの人とか。まあいろいろあったからねえ。
でも今回に関する限り、ぼくはそういう従来の遺恨が出たのではなく、以下のあたりに自分が書いた内容が、何か関係があるんじゃないか、とは思っている。
ぼくはここで、スノーデンがある種の政治的な動きのために日本で利用されたのではないかと見ているし、それを抜きにしてもスノーデンを旗印にした日本の各種の本はちょっとひどいと思ってそう書いたので、それを気に食わないと思う人は当然出るだろう。が、もちろんこれは憶測だ。
いずれにしても、ぼくは残念だと思っている。言論の自由を擁護するはずの本なんだし…… それにQubesOSの話を多少なりともまともに書いた本なんて、日本には他にないよ?
もう少しがんばって販促もできたんじゃないかとは思うけれど、これでなんだか気勢が削がれてしまった部分は確実にあって、これまた残念。あと、上の河出書房のサイト、いまだにhttpsになっていないんだよね。指摘したら、対応すると言っていたんだけれどこの騒ぎもあって、いまだhttpのまま。まあ、すぐにコロナがやってきてしまって、ちょっと世間の関心が逸れてしまった面はあるので、販促してもどこまで行けたか、というのはあるんだけれど。