ケインズ『戦費調達の方法』(1940) に取りかかった→終わった

表題の通り、ケインズ『戦費調達の方法』(これまでの訳題は「戦費調達論」だが、だれがお金くれるわけでもなし、趣味でやってるんだから題名も趣味で決める) の翻訳。

以前、ケインズの『説得論集』をやった。

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ケインズ全集では、この説得論集の巻に戦費調達論も含まれているので、そのときについでにやろうかと思って手をつけていたのだ。が、急ぐこともあるまいと思って他のものに目移りして放置してあった。

それがちょうど戦争も始まったことで、日本もお金を出すつもりが、増税で対応するとかバカなこと言ってる政府が出てきたし、ツイッターで何か話題にした人も出たし、やっちゃいましょう、ということで。

J. M. ケインズ『戦費調達の方法』(1940)(pdf, 700kBほど. 仕掛かり中、本文は完了。2023年1月中には終わるはず)

考えて見れば、エドワード・サイードなんかやってるよりは勉強になるし、ためになるよな。短いし。長さ的に、たぶん「オリエンタリズム」1995年あとがきと大差ないはず。

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三日ほどで終わった。毎回、LaTeXの表組みは面倒だなー、と思う一方で、Excelとかでやっていると、結局最終的な統一とか配置とかで、一回やったら終わりのLaTeXのほうがいいよなー、と思うこともあり。あと、またEPUBにしろとかいう人が出てくるわけ? そうなんだよなー。その際はMSWordでやったほうが変換楽なんだっけ? まあこれは短いからなんとでもなるけれど。

基本的な主張はある意味でシンプル。戦争のときは、生産増やしてもすべて戦争にまわるから、民間に残る消費分は増やせない。みんなが自分の消費を増やそうとして働いたり賃上げ要求したりしても、買えるものが変わらないから、賃上げ分は全部、物価上昇に持ってかれるだけで、食い合いにしかならない。

だったら、その消費できる量に相当する現在の所得だけを人々の手に残して、残りの分は消費できない強制貯蓄という形で政府に預からせてもらおうよ、という話。そしてそれを戦費にまわせばいい。強制的だから全体主義的に思えるかもしれないけど、でもさっき述べたように、その分がみんなの手元にあっても、買えるものは増えないので、物価が上がり、資本家に持ってかれるだけでまったく意味はない。その分を戦争に使って、戦争後はそれが国債みたいな形で貯金になってみんなの手元に残る。いまは、国債出すと金持ちしか買えないから金持ちの懐が肥えるだけだが、この仕組みなら資産もみんなに行き渡るから格差も減るよ、という話だ。

社会主義だなんだ、自由の侵害だという批判は出たけれど、彼も第10章で述べているように、第二次大戦でフランスやドイツがやったこと (そしてその後イギリスもやったこと) に比べても、その後のインフレ進行を見ても、ここの提案よりはかなり厳しく、なんならこれをやっておけばよかったんじゃないの、と思わなくもない。その一方で、この直後にドイツはフランスを占領し、イギリスへの空爆も始まって、こんな仕組みどころではない状況になったので、どこまで効いただろうか、というのをだれか検証していないものだろうか。

というわけで、まあ週一くらいで見に来るといろいろ進展もあるのではと思う。ではお楽しみに。いろいろそのうちおまけも出すので。

ちなみに、ぼくの持っている「戦費調達の方法」原著とケインズの直サイン入りお手紙は以下のようなもの。ロバート・オーウェンの若かりし日のポートレートを送ってくれた、とのこと。ケインズ、どっかでオーウェンの話はしてたかな。いずれ余裕があれば調べて見よう。

「戦費調達の方法」原著とケインズお手紙
「戦費調達の方法」原著とケインズお手紙