池田『日本人のためのピケティ入門』:pp.38-47をとばせばアンチョコとしてはOK

ピケティのアンチョコ本、お次はこれです。

期待している人には申し訳ないんだが、アンチョコ本としては決して悪い本ではない。もちろん、『21世紀の資本』は言っていることはストレートなので、アンチョコ部分はだれが書いても大きくまちがえることはない。昨日の竹信金曜日本も、そこのところははずしていない。が、アンチョコとして使うには、つまみ食いしやすいというのも重要な条件だ。本書はそっちの点もうまく出来ている。だから本当に手抜きをしたい人には、この本のほうが向いてるかも。

もちろん中身は薄いよ。でもそのための本だから仕方ない。一応Q&A形式でまとめていて、その形式も中身はぼくの書いたこの記事と大差ない。そんなのにお金を払うのか、というのはその人の好き好きではある。

また、ピケティの議論についてはすでにいろいろ異論も登場しており、アメリカの経済学会も八割が賛成できないと言っていたりと、その評価についてはもっと書くべきことがあると思うんだけれど、そうした説明はほとんどなし。ソローの書評にクルーグマンスティグリッツちょっと読んだだけですか。薄いなあ。でも本の中身を純粋に知りたいだけという読者には関係ないかもね。これまたその人の好き好き。

問題は、日本についての話を書いた部分(pp.38-47)。ピケティの話がどれだけ日本にあてはまるのか、日本でもr>gは心配しなくてはいけないのか、等々、論じるべきことは多いとおもうんだけれど全然無視。日本の格差は正規と非正規の差だ、と述べて、あとはアベノミクス罵倒になるんだが、その中身はアベノミクスが円安にしたのがよくない、燃料価格高騰がよくない、生産活動が日本に戻ってきていないからよくない、という話。いまだにアベノミクスが円安だけの話だと思ってるとはねえ。ピントはずれだし、ピケティとあまり関係ないから、これが書いてある部分はとばしたほうがいいと思う。ついでに、生産活動はどんどん日本に戻ってきてますよ。こんなの参照。

http://jp.reuters.com/article/topNews/idJPKBN0JX0OW20141219
http://www.nikkei.com/article/DGXLZO80179910W4A121C1TJ2000/
http://jp.reuters.com/.../businessNews/idJPKBN0IH12J20141028

生産拠点動かすのは時間もかかるし決断も少し様子見が必要なので時間がかかるというだけなのです。でも、そういうピンぼけな部分が全体の半分以上という竹信本のようなことにはなっていない。

全部で77ページ、そのうち日本についての10ページほどをぬかすと67ページ。うーん、これに880円(税込み)出します? ピケティ本は700ページ超で六千円弱。ページ単価は原著の倍、しかも文字のつまり具合から見て、一文字あたりは原著の5倍くらい。えらく割高な本です。でも読んだふりをするアンチョコ本としては、竹信本よりはましなので、どっちか選べと言われたらこっちじゃないの? そんな選択を迫られないことを祈りたいけど。





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