ダイヤモンドのピケティ特集:周辺の反応に力点。いちばんの見所は奥谷禮子の支離滅裂な極悪ぶり。

週刊ダイヤモンドもピケティ特集。そろそろ、ピケティ本そのものの解説はみんな食傷気味だろうから、その周辺の話題に話を広げている。

1番の目玉は、ピケティX池上彰対談でしょうね。夢の対談というけど、もっといい夢みたいなあ。例のピケティ東大講演の後でやったみたいだ。それで池上彰がいたのか。あのまま別室で対談したのかな。

内容はいつもながら。正直いって、ピケティの各種インタビューはどれを読んでも、あらゆる人がまったく同じ質問をしていて、答えもまったく同じ。つまらないことおびただしい。多少つっこんでおもしろい話をしているのが、ピケティと吉川洋の対談だけ。あまりにひどいんじゃないの、と思う。

でも今回のやつでは、文学っぽい関心の話が強調されていたのがちょっと特徴的というべきかな。おもしろかったのは、ピケティが最近カルロス・フエンテスを読んだと言っていたところで、メキシコ革命の影響ということは、『老いぼれグリンゴ』でも読んだのかなあ。いずれにせよ、『テラ・ノストラ』を完読したこのワタクシには死角はないのだった。うふふふふ。

ピケティ本そのものの解説は、見開き二ページにおさえている。そして日本の状況と世界の状況についての簡単なまとめ。日本の話は、富裕層が節税に走っているという話だが、うーん、いま一つピントがずれているとは思う。一方世界各国でのピケティとか格差の状況をまとめた部分は、ピケティ本人気と格差の話をもう少しわけて詳しく書いたらもっとよかったのになあ。

続く「有識者11人『私はこう読んだ』」は……佐藤優は、資本課税なんかできない、みんな税金逃れする、金持ちは国家とつるんでる、ピケティ甘い、というものだけれど、100パーセントは無理でも、ある程度は補足されて情報が公開されれば、それは非常に大きな影響を持つというのを無視して、完璧でないからと文句を言われてもなあ。

池田信夫は、読むに値することを言っていない。竹中平蔵は、かなりポジティブな評価と提案。水野和夫はひどい極論、萱野ねんじんは、どこを見てるのやらわからんピンぼけぶり。

大竹文雄は、専門家としてもう少し深いことを言ってほしかった。よいポイントはあげていて、これをもう少し踏み込んでくれればと思うことしきり。大竹だからこそ、これでは不満。

橘木としのりは、本書が日本にはちょっとあてはまりにくいことに軽くふれ、最近の相続税引き上げを評価しつつ贈与免税の拡大を批判。もう少し長くスペースをあげてもよいんじゃないかと思う。

成毛真は、あまり大したことをいっていない。中間層が落ち込んでいるから、産業基盤の地方移転を進めろとか、どういう理屈なのかわかんない話が出てきてまとまりがない。森永卓郎は、データ集めがすごいという話と格差拡大の話。可もなく不可もなく。

奥谷禮子。個人的には、これがこの特集の白眉! 格差が出たのは若者の責任感がないからだとか、企業はでたらめな労務管理はできないといった次の文で、でも健康管理は労働者の自己責任だと言い放つ。この短さでここまで支離滅裂なのは、一種の曲芸ともいうべき技でクラクラします。他もたかが半ページにつっこみどころ満載で、突っ込み密度は最早ブラックホール級。逃げられません。ダイヤモンドは、これを計算ずくで載せているとしたら、すばらしい策士ぶり。ここのところは必読!

こっちに拡大版があるとのこと。でも、さすがにこういうわらかしのためにお金を払う気はない。だれかもっとおもしろいこと書いてあるかどうか教えて。


飯田泰之は、日本の格差の特長として上位6割と下位4割の分断のほうが重要だという、あちこちの対談で指摘してくれた話のまとめ。ピケティを日本に応用する話としてはしっかりしてると思う。


次に、「ピケティめぐる経済学論争」なるコラムがあって、まるでこのブログの内容をそのままコピペしたような文章が続いているけれど、だれだこの恥知らずは。

そして、井上義朗が「経済社会の流れを変えた10冊」なるものの紹介。いまいちピンときませんが、まあいいんじゃないですか。


全体としての講評は、たぶんいまピケティ紹介が一巡して出てくる紹介記事としてはまあまあじゃないでしょうか。途中の識者はしぼるべきだったとは思う。あと、論争紹介するなら、ピケティ本の主張をもう少し細かくのせたほうがわかりやすかったかな、という気はする。でも、そろそろ本を見て「それがどうしたのよ」という関心の広がりがあるのにはうまく対応できてるんじゃないかな。

評価としては、ピケティ本そのものについて知りたいなら(そして他のアンチョコとか何も見てないなら)、東洋経済の特集を薦めたいところ。それを受けていろんな人がどういう反応を見せているのか、という点については、ダイヤモンドのほうが詳しい。ニーズ次第ではあります。そして、奥谷禮子のすさまじさは、まあ是非ご一読あれ。全然役には立たないが、笑えますので。