プーチン「ミュンヘン安全保障政策会議での演説」(2007)

Executive Summary

2007年のミュンヘン安全保障政策会議でウラジーミル・プーチンが、それまでの西側への順応的な態度をかなぐりすてて、アメリカをおおっぴらに罵倒し、もうおまえらの一極世界は終わりで、アメリカなんかもうオワコン、オレはもう好きにするぜ、と宣言した有名な演説。プーチン&ロシアの一つの転回点とも言われる。

「冷戦後の世界はアメリカ中⼼の⼀極世界に向かっていたが、これはアメリカが⾃分の勝 ⼿な要求を、しばしば武⼒により世界に押しつけるものとなっている。だがGDPでもそ の他の⾯でも今後は多極世界へと向かう。アメリカはNATO拡大やミサイルで一方的にロシアをいじめるばかりで許せん。もっと対等に扱え。宇宙軍拡禁⽌や核不拡散の徹底、⺠⽣⽤原⼦⼒の核燃料 サイクル確⽴、市場開放と平等な経済関係などで協⼒をすすめ、オレたちに発言力を認めろ」との論旨。


ウラジーミル・プーチンが、それまでいい子にしようとしていたのに欧米の度重なる裏切り、ハブ、いじめに耐えかねて (と本人は主張している)、「オメーらの偽善にはもうつきあってられねえ、だいたいもうアメリカなんてオワコンだろ、ロシアは自分の道をいくもんね」という爆弾発言をして、当時は新たな冷戦の始まりかとさえ言われた有名な演説。見方によっては、それまで隠していた侵略攻撃的な意図をもう抑えるつもりはないとおおっぴらに宣言した出発点で、2014年や2022年のウクライナ侵略の出発点とも言える。

ミュンヘン安保会議 (2007) で演説するプーチン。最前列のメルケルのこわばった表情がみもの

検索してみてもなぜかちゃんとした翻訳がどこにもなく、つまみ食いのしたり顔の (いい加減な) 解説記事しか見あたらないので、座興に翻訳してみました。

論旨としては簡単。

冷戦後の世界はアメリカ中⼼の⼀極世界に向かっていたが、これはアメリカが⾃分の勝 ⼿な要求を、しばしば武⼒により世界に押しつけるものとなっている。だがGDPでもそ の他の⾯でも今後は多極世界へと向かう。それに応じたグローバル安全保障アーキテクチ ャ再編が必要だ。核も含め、ロシアは軍縮してるのに、アメリカはごまかしの気配がある し、スターウォーズ計画なんか始めてるしNATOは拡⼤してるし、OSCEはNGOなど を使って内政⼲渉しようとする。宇宙軍拡禁⽌や核不拡散の徹底、⺠⽣⽤原⼦⼒の核燃料 サイクル確⽴などで対等な協⼒をすすめよう。また市場などの透明性やオープン性など、 こっちには要求するくせに、⾃分たちは農作物保護その他を維持する偽善も許しがたい。 対等な関係を⽬指したい (=ロシアにもっと発⾔権を与えろ)

正直、現在のプーチンの蛮行を見たあとでは、テメーどの口でそれを言ってやがる、と思わされる一方で、内容としてはむしろおとなしく文明的で、新冷戦とか何を騒いでいるの、このくらい言わせておけばいいじゃん、当時のカダフィよりはるかにおとなしいよ、と思ってしまうが、それは当時の雰囲気を勘案して読んでほしい。

演説の実際の様子は以下のビデオをどうぞ。


www.youtube.com

質疑応答 (質問はずいぶんレベルが低いんだが、それを完全に打ち返しつつ自分の言いたいことをたっぷり盛り込むプーチンの巧者ぶりはなかなかおもしろいよ) も含めた完全版は以下のpdfをお読みあれ。

ミュンヘン安全保障政策会議での演説、およびその後の議論 (pdf, 560kb)

原文はこちら。

en.kremlin.ru

演説部分だけを以下に:


ミュンヘン安全保障政策会議での演説、およびその後の議論

2007年2月10日

ウラジーミル・プーチン  翻訳:山形浩生 hiyori13@alum.mit.edu

 

親愛なる連邦首相 (訳注:アンゲラ・メルケル)、テルチクさん、紳士淑女の皆様、ありがとうございます!

40ヶ国以上もの政治家、軍関係者、実業家、専門家を集めたこのような代表会議に招かれたのを心より感謝しております。

この会議の構造のおかげで、過剰な礼儀正しさは避けられますし、もってまわった、聞こえはいいが空疎な外交表現で語る必要もないでしょう。この会議の形式のため、国際安全保障問題についての私の本当の考えを述べられます。そして私の発言が同僚のみなさんから見て無用に論争的だったり、手厳しすぎたり、不正確だったりするように思えても、怒らないでいただきたい。結局のところ、これはただの会議なのですから。そして演説の最初の二、三分で、テルチクさんがあそこの赤ランプを点灯させないことを希望するものではあります。

さて。国際安全保障は、軍事・政治安定性に関連したものよりずっと多くのもので構成されているのは周知のことです。それは世界経済の安定性、貧困克服、経済的安全保障、文明の間の対話育成も関わってきます。

安全保障が持つこの普遍的で不可分な性質は、「一人のための安全保障は万人のための安全保障」という基本原理として表明されています。フランクリン D・ルーズベルト第二次世界大戦勃発の最初の数日で述べたように「どこかで平和が破られたら、あらゆる場所の万国の平和が危機にさらされているのだ」

この言葉は今日でも重要なものです。ちなみにこの会議のテーマ——グローバルな危機、グローバルな責任——はその見本となっています。

わずか20年前に、世界はイデオロギー的にも経済的にも分裂しており、グローバルな安全保障を確保していたのは、超大国二ヶ国間の巨大な戦略的能力でした。

このグローバルなにらみあいは、最も先鋭的な経済社会問題を、国際社会と世界のアジェンダの周辺部に押しやってしまいました。そして戦争の常として、冷戦はたとえていうなら、実弾をたくさん残していきました。ここで言っているのはイデオロギー的なステレオタイプダブルスタンダードなど、冷戦ブロック思考に典型的に見られる側面のことです。

冷戦後に提案された一極世界も実現しませんでした。

人類史は確かに一極の時代を何度か経たし、世界の至高の地位を目指す動きもありました。世界史では、いろいろなことが起きるものです。

しかし一極世界とは何なのでしょうか? どうごまかそうとも、結局のところそれはたった一つの状況を指すものです。つまり、権威の中心が一つ、武力の中心が一つ、意志決定の中心が一つ、ということです。

それは主人が一人、主権国が一つの世界です。そして結局のところ、これはその仕組みの中のみんなだけでなく、その唯一の主権国自身にとっても危険なものです。というのもそれは、その主権国を内側から破壊するものだからです。

そしてそれはまちがいなく、民主主義とはまったく相容れないものです。というのもご存じのとおり、民主主義は少数派の利益や意見を考慮しつつ多数派が権力を持つということだからです。

ちなみにロシア——我々——は絶えず民主主義についてお説教を受けています。しかしそのお説教をしたがる人々は、なぜだかそれを自分では学びたくないようです。

私は、一極モデルは容認できないだけでなく、今日の世界では不可能だと考えます。そしてこれは、もし今日の——そしてまさに今日の——世界において単一のリーダーシップがあるなら、軍事、政治、経済リソースが足りないから、というだけではありません。もっと重要なのは、このモデル自体が破綻しているということです。というのもその根底には現代文明の道徳的基盤がないし、またあり得ないからなのです。

これに伴い、現代世界で起こっていること——そしてこれについてはまさに議論が始まったところです——は国際関係にまさにこの概念、つまり一極世界の概念を持ち込むという試みです。

そしてその結果は?

一極的 (一方的) でしばしば非正当な行動は問題をまったく解決していません。それどころか、新たな人間悲劇を引き起こし、新しい緊張の中心を作り出しています。ご自分で判断してください。戦争も、地域的、局所的な紛争は減っていません。テルチクさんはこれをきわめて穏健に述べられました。そしてこうした紛争で消える人々も減っていません——以前よりむしろ多くの人々が死んでいます。はるかに多く、ずっと多くの人々です!

今日、我々はほとんど抑えが効かないほどの武力行使を目撃しています——国際関係において、世界を永続紛争の深淵に叩き込んでいる武力です。結果として、こうした紛争のどれ一つに対しても包括的な解決策を見出すに足る強さを我々は持っていないのです。政治的な解決を見出すのも不可能になります。

国際法の基本原理に対する軽視がますます高まっています。そして独自の法的規範が、実際のところますますある一つの国の法体系に近づきつつあります。その一つの国とはもちろん、まずどこよりもアメリカ合衆国で、彼らはあらゆる形で自国の国境から踏み出ています。これはアメリカが他国に押しつける経済、政治、文化、教育政策にはっきり見られます。で、だれがそれを気に入っているのでしょうか。だれがそれで喜んでいるのでしょうか?

国際関係では、ますますどんな問題でも、現在の政治的雰囲気に基づいて、政治的な緊急性と称されるものに従って解決したがる様子が見られます。

そしてもちろん、これはきわめて危険です。それは我々のだれも安全に感じられないという事実をもたらします。これは強調しておきたい——だれも安全に感じられないのです! というのも国際法が自分たちを守ってくれる石の壁のようなものだとはだれも感じられないからです。もちろんそうした政策は軍拡競争をもたらします。

武力の支配性のためどうしても、多くの国が大量破壊兵器を獲得したがることになります。さらに、顕著な新しい脅威——とはいえ、これらも以前からよく知られたものではありました——が搭乗しており、今日ではテロリズムのような脅威がグローバルな性格のものとなっています。

私は、グローバル安全保障のアーキテクチャについて真剣に考えるべき決定的な瞬間がやってきたと確信しています。

そしてそれを進めるには、国際対話におけるあらゆる参加者の利益について、まともなバランスを探さねばなりません。特に国際的な風景は実に多様で実に急変するからです——そうした変化は、きわめて多数の国や地域におけるダイナミックな発展を反映したものです。

ドイツ連邦首相殿がすでに述べた通りです。インドや中国の購買力平価に基づくGDPをあわせると、すでにアメリカよりも多いのです。そしてBRIC諸国——ブラジル、ロシア、インド、中国のGDPで同じ計算をすると、EUGDP合計を超えます。そして専門家によればこのギャップは今後開く一方です。

グローバルな経済成長の新しい中心が、必然的に政治的影響力に変換されて、多極性を強化するというのは疑問の余地がないことです。

これとの関連で多極外交の役割がますます高まっています。政治におけるオープン性、透明性、予測可能性の原理が必要だというのは不可侵であり、武力行使は本当に例外的な手段で、一部の国の司法における死刑の利用に相当するものになるべきなのです。

しかし今日見られるのはその正反対の傾向で、殺人者など危険な犯罪者に対してすら死刑を禁止した国々が、正当とはとても考えられない軍事作戦に平然と参加しているのです。そして実際のところ、こうした紛争は人を殺しています——何百、何千もの民間人の命を奪うのです!

しかし同時に、各国の様々な内紛に対して無関心で超然としているべきなのか、という問題が生じます。専制的な政権や圧政者や、大量破壊兵器拡散などはどうしましょうか? 実のところ、これまた我らが親愛なる同僚リーバーマン氏が連邦首相殿に尋ねた質問の核心でもありました。あなたの質問を私が正しく理解しているなら (とリーバーマン氏に向かい)、もちろんこれは深刻な問題です! 現在起きていることから見て、それに対する無関心なオブザーバーを決め込めるでしょうか? 私もあなたの質問に答えて見ましょう。もちろんそんなことはできません。

しかしそうした脅威に対抗する手段は持っているでしょうか? もちろんあります。最近の歴史を見るだけで十分です。我が国は民主主義への平和的移行を実現しなかったでしょうか? 実のところ、我々はソヴィエト政権の平和的な移行を目撃しました——平和的な移行です!すさまじい政権ですよ! なんという大量の兵器、しかも核兵器まであるのです! なぜ今になって、何かというと手当たり次第爆撃や砲撃を始めねばならないのでしょうか? 相互破壊の脅しがなければ、政治的な文化や民主的価値観および法の尊重が不十分だという話なのでしょうか?

私は、最後の手段としての軍事力使用に関する決定を下せる唯一の仕組みは、国連憲章だと確信しています。そしてこれとの関連で言えば、我らが同僚たるイタリア国防大臣がついさっき述べたことを、私が理解できなかったのか、あるいは彼の発言が不正確だったのか。いずれにしても、私は武力行使NATOEUか国連が行った決断の場合でしか武力行使は正当ではあり得ないという話だと理解しました。もし本気でそう思っているなら、私たちの間には見解の相違があります。あるいは私がちゃんと聞き取れなかったのかもしれない。私の理解では、武力行使が正当と考えられるのは国連が認めた場合だけです。そして国連を、NATOEUで置きかえる必要はない。国産が本当に国際社会の力をあわせて、本当に各国における出来事に対応できるなら、我々が国際法の軽視を捨て去れるなら、状況は変われます。そうでなければ、状況は単に行き詰まりに終わり、深刻なまちがいの数は何倍にも増えます。これに伴い、国際法がその起草においても規範の適用においても、いずれも普遍的な性格を確実に持つようにすることが必要です。

そして民主的な政治行動は必然的に議論と面倒な意志決定プロセスを伴うのを忘れてはいけません。

親愛なる紳士淑女の皆様!

国際関係の不安定化が持つ潜在的な危険性は、軍縮問題に見られる明らかな停滞とも結びついています。

ロシアはこの重要な問題についての対話刷新を支持します。

兵器破壊に関連した国際法の枠組みを維持し、したがって核兵器削減プロセスの継続を確保するのが重要なのです。

アメリカ合衆国と共同で、我々は戦略核ミサイル能力を、2012年12月31日までに1700-2000核弾頭にまで減らすことに合意しました。我々のパートナーも透明性ある形で行動して、何かあったときのために、数百くらいの余分な核弾頭をどこかに寝かしておいたりしないよう期待したいものです。そして今日、新任のアメリカ国防長官が、アメリカがそうした余分な兵器を倉庫や、あるいは言うなれば枕の下や毛布の下に隠したりしないと宣言してくれるなら、みんなで立ち上がり、この宣言を直立して歓迎しようではありませんか。これはきわめて重要な宣言となります。

ロシアは核兵器不拡散条約や、ミサイル技術の多国間監視レジームを厳格に遵守しており、今後も遵守するつもりです。こうした文書に含まれた原則は普遍的なものです。

これとの関連で、1980年代にソ連と米国が各種の短距離および中距離ミサイル破壊の合意に署名したのに、こうした文書は普遍的な性質を持たないことは改めて想起したい。

今日では、他の多くの国がこうしたミサイルをもっています。朝鮮民主主義人民共和国大韓民国、インド、イラン、パキスタンイスラエルなどです。多くの国はこうしたシステムの開発を進め、それを兵器庫の一部に組み込もうとしています。そしてそうした兵器システムを創り出さない責任を負っているのはアメリカとロシアだけです。

こうした条件下では、我々が自分自身の安全保障確保を考えねばならないのは当然です。

同時に、新しい不安定化を招くハイテク兵器の登場を禁止するのも不可能です。言うまでもなく、これは新時代の対立、特に外宇宙での対立を防ぐ手段の話です。スターウォーズはもはやファンタジーではありません——現実です。1980年代の半ばに、我らがアメリカの相方はすでに自分自身の人工衛星を迎撃できました。

ロシアの意見としては外宇宙の軍事化は国際社会にとって予想外の影響を持ちかねず、各時代の到来そのものを引き起こしかねません。そして我々は外宇宙での兵器利用を防ぐためのイニシアチブには、複数回にわたりお目にかかっているのです。

今日私は、外宇宙での兵器配備を防ぐ合意のためのプロジェクトを用意したことをお告げしたい。そして近未来には、それは公式提案として我々のパートナーたちにも送付されます。いっしょにこれに取り組みましょう。

ミサイル防衛システムのある一部をヨーロッパに拡張しようという計画には、不安を感じざるを得ません。この場合ですと不可避な軍拡競争となるものの次のステップなど、だれが要りましょうか? 当のヨーロッパ人たち自身ですら、そんなものを求めているか大いに疑わしいものです。

通称問題国のどれ一つとして、ヨーロッパに本当に脅威をもたらす5000-8000kmの射程を持つミサイル兵器など持っていません。そして近未来とその先においてもそんな事態はやってこないし、当分の間はそんな事態は起こらないでしょう。そして仮想的にそんな発射があったとしても、北朝鮮のロケットがアメリカ領に向かうときにヨーロッパを通るというのは、弾道の法則に矛盾しています。ロシアの格言にあるように、左の耳に触れるのに右手を使うようなものです。

そしてここドイツにいる以上、ヨーロッパ通常戦力条約 (CFE条約) の哀れむべき状態についてはどうしても触れずにはいられません。

1999年にCFE適合条約が調印されました。これは新しい地政学的な現実、つまりワルシャワブロックの廃止を考慮してものでした。それから七年たって、この文書を批准したのはロシア連邦を含めたった四ヶ国だけです。

NATO諸国は公然と、ロシアがジョージアモルドバから軍の基地を引き揚げない限り、側面制約の条項 (側面地域に一定数の軍を配備することへの制限) を含めこの条約を批准しないと宣言しました。我が軍はジョージアから撤退中ですし、そのスケジュールを前倒しにさえしています。ジョージアの相方と抱えていた問題を我々が解決したのは周知の事実です。平和維持活動を行い、ソ連時代からの弾薬が残っている倉庫を保護するために兵員1500人は残っています。この問題については絶えずソラナさん (訳注:当時のNATO事務総長) と議論して、彼も我々の立場を知っています。我々はこの方向でさらに作業を進める用意があります。

しかし同時にどんなことが起こるでしょうか? 同時に、柔軟前線とか称するアメリカの基地が、それぞれ最大五千人も配備されてあちこちにできています。実はNATOは我が国の国境に沿って前線軍を設置しているのに、我々のほうは条約の義務を遵守して、こうした行動には一切反応せずにいるのです。

NATO拡大はこの同盟の近代化だの、ヨーロッパの安全保障確保だのとは一切関係がないのは明らかでしょう。それどころか、これは相互信頼の水準を引き下げる、深刻な挑発を示すものです。そして我々には尋ねる見理がある。この拡大はだれに対して意図されたものですか? そしてワルシャワ条約機構解体後に、西側パートナーたちが行った保証はどうなったのでしょうか? そのときの宣言はいまどこにあるのでしょうか? だれもそんなものを覚えてすらいません。でも私は敢えて聴衆のみなさんに、何が言われたかを思い出させてあげましょう。NATO拡大はNATO事務総長ヴェルナーさんが、1990年5月17日にブリュッセルで行った演説を引用しましょう。彼は当時「我々がNATO軍をドイツ領の外に置く用意がないという事実は、ソヴィエト連邦にしっかりした安全保障上の保証を提供するものだ」と述べました。そうした保証はどこへいったのでしょうか?

ベルリンの壁の石やコンクリートブロックは、おみやげとして配られてしまって久しい。しかし、ベルリンの壁崩壊が可能だったのは、歴史的な選択のおかげだったというのを忘れないようにしましょう——その選択は、我々の国民、ロシアの人民も行ったものなのです——民主主義、自由、オープン性、大ヨーロッパ一家に属する国々との誠実なパートナーシップを支持する選択です。

それがいまや、彼らは新しい分割線や壁を我々に押しつけようとしている——そうした壁はバーチャルかもしれないが、それでも分割はするし、大陸を分断するものです。そしてこうした新しい壁を解体して取り壊すには、またもや何年も、何十年も、さらに何世代もの政治家たちを必要としたりするなどということもあり得るのでは?

親愛なる紳士淑女の皆さん!

我々は、不拡散レジーム強化については文句なく賛成です。現在の国際法原理は、平和目的で核燃料を製造する技術開発を可能にしています。そして多くの国はきわめて正当な理由から自国のエネルギー自立の基盤として独自の原子力を作り出したい。でも我々は、こうした技術がすぐに核兵器に転用できることも理解しています。

これは深刻な国際的緊張を作り出します。イラン核プログラムを取り巻く状況がはっきりした例となります。そして国際社会がこの利害対立を解決するための、まともな解決策を見いだせなければ、世界は同様の不安定化する危機に苦しみ続けることになります。境界線上にいる国はイランだけではないからです。我々はどちらもこれを知っています。我々は絶えず、大量破壊兵器拡散の脅威に対して戦い続けることになります。

去年、ロシアはウラン濃縮国際センターを作ろうというイニシアチブを提案しました。我々はそうしたセンターがロシアに作られるだけでなく、民生原子力エネルギーを使う正当な根拠のある他国にも作る可能性にはオープンです。自国の原子力エネルギーを開発したい国々は、そうしたセンターへの直接参加を通じて燃料供給の保証を受けられます。そうしたセンターは、もちろん、厳しいIAEA監督下で運用されます。

アメリカ大統領ジョージ・W・ブッシュが提案した最新のイニシアチブは、ロシアの提案にも沿うものです。私はロシアと米国が客観的に等しく、大量破壊兵器の不拡散レジームとその配備 (訳注:を阻止する) レジーム強化に関心があると考えています。新しいもっと厳格な不拡散手法を発達させるリーダーとして行動しなければならないのは、主要な原理力とミサイル能力を持つ、まさにこの両国なのです。ロシアはそうした作業の用意があります。我々はアメリカの友人たちとの相談に取り組んでいます。

一般に、自前の核燃料サイクル確立するのが個別国の利益にはならないが、それでも原子力エネルギーを開発してエネルギー能力を強化する機会は得られるような、政治インセンティブと経済インセンティブの総合的なシステム開発について相談すべきです。

それとの関連で、国際エネルギー協力についてもっと詳しく話しましょう。ドイツ連邦首相殿も、これについてちょっと述べています——この問題に言及、触れたのです。エネルギー部門でロシアはすべての国にとって均一な市場原理と透明な条件を作り出そうとしています。エネルギー価格は政治的な投機や経済的圧力や恫喝にさらされるのではなく、市場で決められるべきだというのは当然です。

我々は協力にはオープンです。我が国の主要なエネルギープロジェクトすべてには、外国企業が参加しています。推計にもよりますが、ロシアでの原油採掘の最大26%——是非ともこの数字を考えてください——最大26%のロシア原油採掘は、外国資本で行われているのです。ロシア企業が西側諸国の主要経済部門で大規模に参加しているような、類似の例があれば是非とも教えてください。そんな例はありません! そんな例はないのです。

またロシアへの外国投資と、ロシアが外国に行う投資とのバランスも指摘したい。その比率は15対1です。そしてここには、ロシア経済のオープン性と安定性の明らかな例があります。

経済安全保障は、全員が均質な原理に準拠すべき部門です。我々は完全に公平である用意があります。

この理由から、ますます多くの機会がロシア経済に登場しています。専門家と西側パートナーたちは客観的にこうした変化を評価しています。このためロシアのOECDソブリン信用格付けは改善し、ロシアは第四グループから第三グループに昇格しました。そして今日ミュンヘンにいるので、この機会にこの決定についてはドイツの同僚たちに感謝を述べておきたいと思います。

さらにご存じの通り、ロシアのWTO加盟プロセスは最終段階まできています。長い困難な議論の間に、言論の自由自由貿易、対等な機会についての発言を一度ならず耳にしましたが、なぜだかそうした発言はロシア市場についてのみ行われていました。

そしてグローバル安全保障に直接影響する重要な主題が、まだもう一つ残っています。今日では、多くの人々が貧困に対する闘争について語ります。この分野では実際に何が起きているのでしょうか? 一方では、金融リソースが世界最貧国支援のために割り当てられています——そしてときにはそれがかなり巨額の金融リソースです。しかし正直言って——そしてここにいらっしゃる多くの方はご存じのことですが——その同じドナー国の発展と紐付いているのです。そしてその一方で、先進国は同時に農業補助金を維持して、一部の国がハイテク製品にアクセスするのを制限しています。

そしてありのままに語りましょう——片手で慈善に満ちた支援を配りつつ、反対の点では経済的後進性を温存するだけでなく、そこからの利益をピンハネするのです。停滞地域における社会的緊張増大はどうしても、急進主義、極端主義の発展をもたらし、テロリズムと地域紛争を後押しします。そしてこうしたすべてが、たとえばですよ、ますます世界全体が不公平だという感覚を抱くようになっている中東のような地域で起これば、グローバルな不安定化の危険が生じます。

世界の先進国がこの脅威を見るべきだというのは明らかです。そして、だから彼らがグローバルな経済関係におけるもっと民主的で公平なシステムを構築すべきだというのも明らかです。万人にチャンスが与えられ、発展の機会が与えられるシステムです。

親愛なる紳士淑女の皆さん、安全保障政策会議で話をするからには、ヨーロッパ安全保障協力機構 (OSCE) について言及しないわけにはいきません。ご存じの通り、この組織は安全保障のあらゆる——そしてこの「あらゆる」は強調したい——側面を検討するために作り出されました。軍事、政治、経済、人道、そして特にこれらの領域の間の関係です。

今日、何が起きているのが見られるでしょうか? このバランスが明らかに破壊されているのが見られます。人々はOSCEを、ある一つの国、または国々の外交利益促進用に設計された粗野な道具に変換しようとしています。そしてこの作業はまた、各国の創建者たちとは絶対につながりのない、OSCEの官僚的な仕組みによっても実現されています。意志決定の手順と、非政府組織 (NGO) と称するものの関与はこの作業のために仕組まれています。こうした組織は形式的には独立していますが、魂胆を持って資金提供され、したがって牛耳られているのです。

創建文書によると、人道領域でOSCEは各国の要請に基づき国際人権規範遵守について加盟国を支援するよう設計されています。これは重要な作業です。我々はこれを支持します。したかしこれは、他国の国内問題に干渉するということではないし、特にそうした国々が生きて発展するやり方を決めるレジームを押しつけるということではないのです。

そうした干渉が民主国家の発展を促進しないのは明らかです。それどころか、そんな干渉はそうした国の依存性を高めて、結果として政治的かつ経済的に不安定にしてしまうのです。

OSCEはその主要な任務に則り、独立国とは尊敬、信頼、透明性に基づいて関係構築をするよう期待します。

親愛なる紳士淑女のみなさん!

終えるにあたり、私は以下の点を述べたい。我々はあまりにしばしば——そして個人的には私自身があまりにしばしば——ヨーロッパを含む各種パートナーたちから、ロシアは世界問題においてますます活発な役割を果たすべきだといった訴えを耳にします。

これとの関連で、一つちょっとした所感を述べさせてもらうことにします。そんなことを我々に対して煽る必要などないも同然です。ロシアは千年以上の歴史を持つ国であり、ほぼ常に独立の外交政策を実施する特権を利用してきました。

今日になってこの伝統を変えたりはしません。同時に、世界がどう変わったかについては十分に認識しているし、自分自身の機会と潜在能力については現実的な感覚を持っています。そしてもちろん、我々は責任ある独立したパートナーたちとやりとりを続けたい。共に働いて、公平で民主的な世界秩序を構築し、それにより選ばれた少数だけでなく万人にとって安全保障と繁栄を確保するようにしたいのです。

ご静聴、ありがとうございます。