お年玉にしてはショボいが:アダム・スミス『国富論』8章まで (その後9章まで)

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 その昔、1999年にプロジェクト杉田玄白をたちあげたときに手をつけたはじめた、アダム・スミス国富論』、4章くらいまでやってその後ほとんど進んでいなかったが、この4日ほど気晴らしでがーっとやって、8章まで終わった。これで第一巻の半分くらいになる。10章と11章がやたらに長いんだよ。(その後9章も終わった)

アダム・スミス『国の豊かさの性質とその原因についての検討』 89章まで (pdf, 1.1MB)

アダム・スミス『国の豊かさの性質とその原因についての検討』 89章まで (epub, 0.2MB)

お年玉にしてはショボいが、まあ新年に暇なら、読んで罰はあたらないと思うぜ。しかしアダム・スミス、こうして見ると本当にいろんなこと考えていて、制度の影響とかインセンティブの影響とか、貧困削減の重要性とか労働争議問題とか、人口との関係とか、あれもこれもすでにここにあるというのはスゲえもんだ。経済成長はいらないとか言ってる連中は、スミス読めって感じ。

まだきちんと見直しとかしていないし、20年前の部分との整合とかも見ていないし、調べなきゃと思ってやっていない部分も多い。Stockというのを在庫とするのがちょっと違和感あるんだよねー。あと、wageは賃金と訳しているが、この頃は労働の対価は必ずしもお金では払われておらず、住み込みで養ってやるかわりに働く、というような労働対価も一般的だったので、賃「金」ではないんだけど、報酬とすべきかなあ、と迷ったり(付記:年明けて、報酬に変えた)。

そしてこれがあるから、現在ならreal/nominal で実質/名目と何も考えずに訳すところでも、そういう風に訳してはいけない。いまのreal/nominalはインフレを考慮するかどうか、という話だけれど、金本位制がマジで機能していた時代には、現在のようなインフレというのは存在しない。当時のイギリスで一ポンドといったら、マジで銀の重さが一ポンド、という意味だ。その意味ではインフレはない。良貨が悪貨を、というインフレはあるが、程度は限られる。が、その一方でその一ポンドの銀が買えるもの、という意味ではインフレがあったりするので、現代の常識で考えると話がとってもややこしいのだ。

そしてその話をおいても、ここでのreal/nominalは、インフレの話ではない。衣食住を提供する分も含めた形での、金銭以外の収入まで考慮するか、それとも金銭的な収入だけを考えるか、という話だ。だからまさに「本当のモノも含めた収入」「金銭的な収入」というちがいなのだ。そこらへん、現代的な考えで機械的に訳すと意味合いがかなりちがってきてしまう。でもそこまで厳密なものを求めないなら十分読めると思う。

この調子で、第一巻は今年度中には終えて、うまくいけば来年中に最後まで……は無理でも3巻の終わりくらいまではやっつけたいね。ひどい翻訳ばかりだった前世紀末に比べて、いまはマシな翻訳も増えてきたから、かつてほどの意義はなくなったけれど、ぼく自身の座興でもあるし。

来年まであと15分。よいお年をお迎えくださいませ。

付記。ところできみたち、「見えざる手」というのがまだ登場していないのに気がついてるかい?