6/26 プリゴジンの乱に対するプーチン弁解の見方

Executive Summary

6/24プリゴジンの乱についてプーチンが6/26に出した玉音放送は、プーチンが今回の騒乱で何を気にしているかがうかがえる。ワグネルがほとんど何の抵抗もなしにモスクワの手前に到達できたし、また一部では歓迎すらされたというのを大変気にしている模様。同時に、自分たちがそれに対して無策でおたついていた (少なくともそう見られている) のも気にして、「いや最初から手は打った! 反撃がなかったのは流血を避けるため! 対応がないのは改心の時間を与えたため!」と弁解。 またワグネルグループも、首謀者プリゴジンはもちろん獄門打ち首、その手下たちもお咎めなしのように見せつつ、兵士になって過ちを償え=死ね、という話で、むごい。


6/26 プリゴジンの乱についての弁解の見方

ロシアの6/24プリゴジンの乱は、いろんな意味でわけがわからず、それだけにいろいろおもしろいところ。いろんな人がいろんな憶測をしているが、確固たるところは当事者にしか (いまのところ) わからない。

それだけに、その当事者であるプーチンが6/26に出した玉音放送はちょっとおもしろい。

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当然のことながら、これは事実をきちんと述べたものなんかではない。プロパガンダ。ただそのプロパガンダは、当然ながら国民の気にしている点について答えなくてはならない。だから、これはプーチンがどんな批判に応えようとしたか=今回の反乱で彼が何をヤバいと感じているかを見るべきところ。

その演説の主張と、彼が何を気にしていて何を訴えたいか=本音を表形式でまとめてみました。

主張 本音
国民が団結したおかげで危機を逃れた! 団結しないで、結構ワグネルを歓迎したりした連中がいたって? ふーん。
いろんな機関も団結したよな? おめーら、何もしなかったよな?
首謀者は全部わかっていた裏切り者だ! プリゴジン、許さん
これは西側やウクライナによる意趣晴らしだ! (額面通り)
敵に立ち向かい撃墜されたパイロットに感謝! 彼らが阻止してくれた! 行きがけの駄賃で撃墜されただけだが、そういうストーリーで行きますんで
適切な対応は最初からした! でも連中が目覚めて改心するのを待たねばならなかった! 我々がおたついて無策だったと思ってるだろう! でもそんなことない! ちゃんとやってたんだからな!
ワグネルの連中は政府と契約してもいいし家に帰ってもいい! 自由だよ!でも兵として残ると信じてるぜ! 政府の奴隷兼弾よけになる以外の道があると思うなよ
ルカシェンコありがとう (額面通り)
これはロシア最大の危機だった (え、それを認めちゃっていいんですか?)

まず彼は、ワグネルがほとんど何の障害にもあわずにモスクワのすぐ手前まで来られたことを、えらく気にしている模様。最初に、ずいぶんチマチマした団体を挙げて、それが決然と対抗し〜 とか言ってるのは、たぶん「お前ら対抗しなかったよな、フリーパスで通したり逃げたりしたよな」ということ。国民の団結を強調してるのは、建前半分だがむしろワグネルを歓迎したりする一派がいたことに釘をさしていると見るべきだと思う。

そして無駄死にしたパイロットたちは、祖国防衛の英雄、ということに仕立てるようだね。

そしてもちろん、「首謀者」がワグネルグループの兵士や指揮官をだまして造反させたということ。首謀者の背後にはウクライナと西側がいるのだ、これは反攻失敗の恨みを晴らすためだ、というのは、その反攻が効いているというのを隠す強がりなのかどうかは、はっきりわからない。が、プリゴジンは許してもらえない模様。(6/28追記:その後、刑事訴追はすべて終結との報せが入り、追求しないのかも、という感じになってきた。)

あと、自分たちが無策だったと思われているのをえらく気にしている模様。最初から適切な手を打った、というのが二度も強調され、でもなぜ何も対応が行われなかったように見えたのか、というのについて、「私が流血沙汰は避けろと命じたから」「改心の時間を与えていただけだからな!」という言い逃れ。

すると、「ああ、やっぱ本当におたついて無策だったのねー」というのを読み取るのが正しい見方だとぼくは思う。

そしてワグネルグループの兵士や指揮官はお咎めなしで好きに道をえらんでいい、と言いつつ「決断を自由に下せるが、私は彼らの選択が、自分たちの悲劇的なまちがいに気がついたロシア兵としてのものだと信じる」という言い草。いやらしいよね。兵隊になれ、そしてまちがいの償いをしろ=砲弾の餌食になれ、もちろんそうしない自由はあるけど〜、という。

またルカシェンコに明示的に触れている。何もしていないんじゃないか、という憶測もあったけれど、実際に何か役割は果たしている模様。それが具体的になんだったのかはわからない。

そして、これが最大の危機だった、国土への脅威だったというのを明言しているのは、少し驚いた。つまらん不良部隊の造反だよ、一瞬で叩き潰すぜ、というようなシナリオにして、余裕をかますかと思っていたら、自分たちの無策を隠すために敢えてすごい大変なできごとだったという話にするしかない模様。かなり焦っているように見える。クレムリンのサイトには、動画は上がっていないけれど、なんか現地テレビの映像などを見ると、プーチンはかなり顔がこわばっているように見える。

今回のに対して、プーチン政権への打撃は少ない、という見方も出ているけれど、なんかこの弁解を見る限り、当人たちはヤバいと思っているみたいで、いろいろ震撼しているんじゃないか、とは思うんだが。ま、どうなりますやら。あと、こういう建て付けにすると、ショイグやゲラシモフはしばらくは残留させないと話がなりたたない。無策を露呈したが、一方ですぐに処分するとプリゴジンの思惑通りみたいで体裁悪いから。プーチンのいつもの手口として、半年か一年くらいたって、変な役職でっちあげてそっちに飛ばすようなことになるのでは? (6/28追記:なんと、ショイグには反乱を防いだといって勲章をあげている。不手際を叩くよりまずは体面/ストーリー重視か。意外です)

 

あと今回ので気がついたおもしろいところ。反乱が起きた6/24の国民に向けた演説には、場所が入っていない。

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単純なミスなのか、それともプーチンは噂されていたように、クレムリンから逃げていたのか? (戦略的に居場所を隠したのかもしれないが、それは逃げたと同じことだ) 。あと、このクレムリンの大統領動向では毎日必ず何かしらあるんだが、6/25だけは何も書かれていない。かなりいろいろやばかったのねー、本人が言うほど、最初から適切な対応ができていたわけじゃないのでは、という印象は拭えないとは思う。


9月1日付記

文中でオレンジ色で加筆したように、ここでの見立ては、その直後のいろいろな動きで、ちょっとはずれたかな、という印象もあった。プリゴジンは、ベラルーシに逃げたと最初に言われたが、その直後に戻ったとされたし、その語刑事訴追全部おしまい、という話にはかなり驚いた。さらに、その後8月になって、プリゴジンが「イェーイ、アフリカでがんばってるぜーい」ビデオを出して、かなり読み違えたか、と思った。

しかし。

その直後に、ロシアでプリゴジンの乗った飛行機が墜落。死亡が確認された。偶然だ、と思う人はいないよねえ。消されたんだろう。結局、二ヵ月ほど泳がせてから、しっかり殺しました、ということでここでの見立てはほぼ正しい、ということの模様。すると、ショイグとかどうなるのやら、というのは楽しみではある。

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