Thomas Pynchon Against the Day 結末その3

Against the Day

Against the Day

承前

ところ変わって、パリのギャルソン'71の年次大会。包囲下に置かれたパリを、気球で出入りして物資を運んだ英雄たちが、毎年気球で集合する、いまや気球マニアの一大大会だ。Inconvenience 号も、目には見えないけれどそこにきていた。乗組員たちは、エーテル主義者の女の子たちと結婚。

そして彼女たちも次々に子供ができる。それでも家族たちをのせてInconvenience号は飛び続ける。それとともにInconvenience 号も改良拡大を続けている。相対性理論の発展で、いまや動力は光で、そこにエーテル浮遊の原理も取り込んでいる。「もはやそれは、重力の問題ではない――空を受け入れるということなのだ。」それはますます拡大を続け、ありとあらゆる生命を載せて、かつては空の巡礼の乗物だったものが、それ自体としていまや願望の目的地と化している。

というのも、あらゆるかなえられた願いは、この既知の創造界において、求められず報われもしなかった善が何らかの形で生じ、少なくともわれわれにとってわずかでも手に入れやすくなったということなのだから。Inconvenience号の艦上では、だれもこの徴を目にしてはいない。かれらはそれが、まるで近づく雨雲のように存在するのを知っている――マイルスは確信している――が、それは目には見えない。やがてかれらは、気圧計が下がり始めるのを目にすることだろう。風が変わったのが感じられるだろう。空を分けてやってくるものの栄光に備え、曇りゴーグルをかけるだろう。かれらは恩寵に向けて飛ぶ。

(完)*1



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*1:長いことご愛読ありがとうございました! トマス・ピンチョン先生の次回作にご期待ください!