Thomas Pynchon Against the Day 結末その2

Against the Day

Against the Day


承前

こうしてシャンバラへの入り口は閉ざされ(詳細は「Chums of Chance とシャンバラ大決戦」をお読みください!)、現実関数のフーリエ展開による無限の領土拡張への道は完全に断たれてしまう。これによりエントロピー無限発散による宇宙即時熱死の危機も回避され、ヴァイブ社とアナキスト組織はどちらも世界支配/世界破壊の野望を打ち砕かれる。その残党による壮絶な覇権争いの中、時代は確実に第一次世界大戦に向けて暗雲がたれこめるのだった。

その中で各人の運命もちりぢりとなる。異世界を見たリュウは、そのままチベットのドロジエフのもとに弟子入りし、ニンマ派の修行を積み次期ダライラマ探索団に参加することとなる。キットはコンスタンチノープルに戻り、ヤスミンと結ばれるが、大戦の中でその行方はようとして知れなくなった。一方フランクは父の遺髪を継ぎ、ロシアでトロツキーボリシェビキ部隊に加わる。


だがあのシャンバラへの入り口に消えたInconvenience号はどうなったのだろうか。かれらの消息を知るものはない。シャンバラの地でも今なお、宿敵ボルシャイア・イグラ号と戦い続けているのだろうか。コロラドのかつてのテスラ実験跡には、いまもテスラ装置が一台残されており、ほこりをかぶってだれも顧みないが、ときにそれが不思議なメッセージを打ち出すこともあるとか。だがそれを読もうとする者は、いまや老いさらばえつつも装置の足下を一瞬たりとも離れようとしない、あの読書犬パグナックスだけなのだった。


(完)*1



クリエイティブ・コモンズ・ライセンス
山形浩生の「経済のトリセツ」 by 山形浩生 Hiroo Yamagata is licensed under a Creative Commons 表示 - 継承 3.0 非移植 License.

*1:長いことご愛読ありがとうございました! トマス・ピンチョン先生の次回作にご期待ください!