ケインズ『平和の経済的帰結』:アメリカ版とイギリス版

しばらく前に、ケインズ『平和の経済的帰結』(1920) とその続編 (1922) を翻訳した。

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で、後者をやっていたときに、実はこの二冊とも、イギリス版とアメリカ版が微妙にちがっていることに気がついた。イギリス版はマクミラン社から出ていて、アメリカ版はハーコート・ブレース社から出ている。でも、後者では、イギリス版でお金が英ポンド表記になっている部分が、全部米ドルに換算されている。

さて当時は、固定為替レートだったから、これは別に大したことではない。当時の為替レートは、1ポンド=5ドル。だから数字を全部5倍すればおしまいだ。いまの日本の翻訳でも、フィート/マイル表記をメートル法に直したりするし、換算に何か問題があるわけではない。切りもいいので、計算もしやすいしズレもない。日本語訳だと、1フィート=30センチ、3フィート=1メートルで換算しちゃうことが多いけれど、校正で「ここは厳密に計算すると1メートルではなく91.44センチですが直しますか」とか言われることがあって、いやそういう精度を求められる文脈じゃないですから、と却下する場合が多々ある。が、このくらいきりがいいと、そういう問題は一切起こらない。

唯一あるのは、大ざっぱな表現として「5、6万ポンドくらいの〜」といった表現が、アメリカ版では機械的に翻訳されているので「25,30万ドルくらいの」といった表現になること。なんで数字がこんないきなり飛ぶのか、言われて見ればちょっと不自然かな、という部分が出てこないわけではない。本当に翻訳としてやるなら「20万ドル台後半」とかにすればいいのかもしれないけれど、さすがにそこまで細かく手を入れるのは面倒だと思ったんでしょー (というかケインズが特に気にしなかったんだと思う)。

ということで、いずれの本も、やっぱ当然ながらイギリス版がベースであり、アメリカ版はその翻訳版、ということになる。ネット上にある原文のテキスト版やスキャン版は、どっちのバージョンを使ったものもあって、当初はまったく気にせずにプロジェクトグーテンベルクにあったアメリカ版を元に翻訳していたのだけれど、一応イギリス版をベースにしておくのがよろしかろうと思って、改訂しておいた。

ケインズ「平和の経済的帰結 (イギリス版)」(pdf 1.2 Mb) https://genpaku.org/keynes/peace/keynespeacej.pdf

物好きに、なんとしてもドル表記で読みたい、という方のために、アメリカ版も一応残してある。ただし、上のやつを作る時にいくつか誤変換をなおしたりしたので、上のよりはまちがいが多い。

ケインズ「平和の経済的帰結(アメリカ版)」(pdf 1.2 Mb) https://genpaku.org/keynes/peace/keynespeacej_US.pdf

ただし、イギリス版はアメリカ版のドル表記の部分をポンド表記に戻しただけ。全文をきちんと見直したわけではない。ないと思うけれど、ケインズがイギリス版とアメリカ版で何か記述を大きく変えた部分があったとしても、それは反映されていないので、ご注意を。気にするやつもいるまいと思うけれど、まあちょっとした話のタネにでもどうぞ。