書評

宮内『ヨハネスブルグの天使たち』:嫌いではないが背景設定が無理すぎ

ヨハネスブルグの天使たち (ハヤカワSFシリーズ Jコレクション)作者:宮内悠介早川書房Amazon うーん、困ったなあ。 全体的な雰囲気は嫌いではない。トーンはモノローグ調。戦争あるいはスラム化等した雰囲気の中で、荒んだ心を抱える語り手がある種の人間的…

柳下『皆殺し映画通信』:一気に読んではいけません。

皆殺し映画通信作者: 柳下毅一郎出版社/メーカー: カンゼン発売日: 2014/03/20メディア: 単行本(ソフトカバー)この商品を含むブログ (11件) を見る柳下の、ダメ日本映画紹介本。紹介されているクズ日本映画のどれも、明らかにくだらなそうだけれど、柳下の…

藤原『ナチスのキッチン』:せっかくの調査が強引なイデオロギーはめこみで台無し。

ナチスのキッチン作者:藤原 辰史水声社Amazonナチスというのは、とってもおもしろい存在だ。ビジュアルなこだわり、異様な合理性の追及の一方で、変なオカルトへの耽溺、あれやこれや。いろんな細かい部分をこだわって考えたりしているので、建築でも経済で…

Wasik Keynes's Way to Wealth : ケインズの具体的投資法はおもしろいが画期的ではない

Keynes's Way to Wealth: Timeless Investment Lessons from The Great Economist (English Edition)作者:Wasik, John F.発売日: 2013/11/29メディア: Kindle版 2013/11/19 山形浩生 Executive Summary 世界金融危機の後で再びいちやく注目を浴びているジョ…

パワーズ『幸福の遺伝子』:同じ話の繰り返し。

幸福の遺伝子作者: リチャードパワーズ,Richard Powers,木原善彦出版社/メーカー: 新潮社発売日: 2013/04メディア: 単行本この商品を含むブログ (15件) を見るパワーズ、『ガラテイア2.2』でもうかなり見放していたんだが、一冊で何がわかろうかいとも思うし…

アーウィン『マネーの支配者』:ECBトリシェと、その人形遣いブンデスバンクの悪行が見所です。

マネーの支配者: 経済危機に立ち向かう中央銀行総裁たちの闘い作者: ニール・アーウィン,関美和出版社/メーカー: 早川書房発売日: 2014/03/20メディア: 単行本この商品を含むブログ (3件) を見るこんな本が出ました。で、この本は頼まれて帯の推薦文を書いた…

ブラフマン『ひらめきはカオスから生まれる』:乱雑礼賛はうれしいが、中身なさすぎ。

ひらめきはカオスから生まれる作者: オリ・ブラフマン,ジューダ・ポラック,入山章栄,金子一雄出版社/メーカー: 日経BP社発売日: 2014/02/15メディア: 単行本この商品を含むブログ (6件) を見る 乱雑なほうがインスピレーションやひらめきがうまれやすい、秩…

ゴードン『ミシンと日本の近代』(つづき):マイクロファイナンス、グローバリズム、「主婦」と家庭と社会、その他なんでも!

ミシンと日本の近代―― 消費者の創出作者: アンドルー・ゴードン,大島かおり出版社/メーカー: みすず書房発売日: 2013/07/24メディア: 単行本この商品を含むブログ (9件) を見る昨日から引き続き、『ミシンと日本の近代』。今和次郎の考現学を通じた洋装の発…

ゴードン『ミシンと日本の近代』:抜群におもしろい。物販と金融と生産に消費、産業と文化と女性の社会進出、なんでもあり!

ミシンと日本の近代―― 消費者の創出作者: アンドルー・ゴードン,大島かおり出版社/メーカー: みすず書房発売日: 2013/07/24メディア: 単行本この商品を含むブログ (9件) を見る読んでいる途中だが、抜群におもしれーわ、これ。ミシンの普及は掃除機や洗濯機…

根本『物語 ビルマの歴史』:通り一遍で重要な点に踏み込めていないのでは?

物語 ビルマの歴史 - 王朝時代から現代まで (中公新書)作者: 根本敬出版社/メーカー: 中央公論新社発売日: 2014/01/24メディア: 新書この商品を含むブログ (5件) を見るはーいみなさんこんにちは。これを書いているのはミャンマー行きの飛行機の中。直行便で…

イーガン『しあわせの理由』:坂村健の解説にびっくり

しあわせの理由 (ハヤカワ文庫SF)作者:グレッグ イーガン早川書房Amazon イーガンは、順列都市もディアスポラもたいへん気に入って、たぶん高校か大学時代なら全作品を読みあさったところだろうけど、いまはそうならないのは、ぼくがすれっからしの読者にな…

クラウス『宇宙が始まる前は何があったのか?』:ぜんぜん関係ないが、3匹のクマって……

宇宙が始まる前には何があったのか?作者: ローレンスクラウス,Lawrence M. Krauss,青木薫出版社/メーカー: 文藝春秋発売日: 2013/11/29メディア: 単行本この商品を含むブログ (19件) を見るこの表記の本を読んでいて、なかなかおもしろいんだが、ちょっとひ…

カルロス・フエンテス『我らが大地 (テラ・ノストラ)』: その5 読了!!

Terra Nostra (English Edition)作者:Fuentes, CarlosFarrar, Straus and GirouxAmazon やったー、昨日から100ページほど残していた部分完読! 読み終わったぜー! 最後の部分は、エル・セニョールの死……なんだが、そこになぜか、現代に生まれ変わったイ…

カルロス・フエンテス『我らが大地』: その4 第3部「次の/別の世界」(の途中)

Terra Nostra (English Edition)作者:Fuentes, CarlosFarrar, Straus and GirouxAmazon さて第二部でも話はだんだん動きを持ち始めていたが、最後の部分になって、やっと話が本格的に動きを見せ、俄然読みやすくなる――とはいっても、相変わらず面倒にはちが…

カルロス・フエンテス『我らが大地』: その3 第2部「新世界」読了

Terra Nostra (English Edition)作者:Fuentes, CarlosFarrar, Straus and GirouxAmazon(この前の部分はこちら)さて一番短い第二部「新世界」は、六本指の私生児三人のうち、砂浜に投げ出されて発見した船乗りこと「巡礼」の語り。かれはスペインから新世界…

カルロス・フエンテス『我らが大地』: その2 やっと第一部「旧世界」読了

Terra Nostra (English Edition)作者:Fuentes, CarlosFarrar, Straus and GirouxAmazonこの小説は三部構成になっていて「旧世界」「新世界」「次の(彼方の)世界」となっている。最初の「旧世界」が、全780ページのうち350ページほどで半分近く、いちばん長…

近森他編『無印都市の社会学』:社会学の「フィールドワーク」って、小学生の観察日記ですか。

無印都市の社会学: どこにでもある日常空間をフィールドワークする作者: 近森高明,工藤保則出版社/メーカー: 法律文化社発売日: 2013/08/21メディア: 単行本この商品を含むブログ (4件) を見るコンビニとかショッピングモールとか家電量販店、パチンコ屋、フ…

カルロス・フエンテス『我らが大地』: その1 な、ながいし技巧に走りすぎ……

Terra Nostra作者: Carlos Fuentes出版社/メーカー: Farrar, Straus and Giroux発売日: 2013/05/14メディア: Kindle版この商品を含むブログ (5件) を見る一連のカルロス・フエンテス著作を読んできて、あとはこれと Hydra Head さえ読めばフエンテスはすべて…

パワーズ『ガラティア2.2』:がっかり。人工知性の実現とテメーのちんけなうじうじと、どっちがだいじだと思ってんだ!

ガラテイア2.2作者:リチャード パワーズみすず書房Amazon なぜかパワーズをちゃんと読むのは初めて。本書とか囚人のジレンマとか幸福遺伝子とか、科学っぽいネタを使った小説が得意というのは知っているけど、これまで敬遠していた。でも、本書でがっかりし…

Luigi Luca & Francesco Cavalli-Sforza The Great Human Diasporas: 人類進化と分布のとても優秀な一般向け解説書。インチキに使わずきちんと読もう!

The Great Human Diasporas: The History Of Diversity And Evolution (Helix Books)作者: Lynn Parker,Luigi Luca Cavalli Sforza出版社/メーカー: Perseus Books発売日: 1996/11/06メディア: ペーパーバック購入: 1人 クリック: 1回この商品を含むブログを…

Duff McDonald The Firm: McKINSEY & THE INVENTION OF AMERICAN BUSINESS (2013) 査読評価書

マッキンゼー―――世界の経済・政治・軍事を動かす巨大コンサルティング・ファームの秘密作者: ダフ・マクドナルド,日暮雅通出版社/メーカー: ダイヤモンド社発売日: 2013/09/21メディア: 単行本この商品を含むブログ (7件) を見る昔、査読した本の邦訳が出版…

Cavalli-Sforza et al. The History and Geography of Human Genes: 人間の遺伝子分布についての立派な百科事典。ネトウヨどもは本書についてのインチキなデマをやめるように。

The History and Geography of Human Genes作者: Luigi Luca Cavalli-Sforza,Paolo Menozzi,Alberto Piazza出版社/メーカー: Princeton Univ Pr発売日: 1996/08/05メディア: ペーパーバック クリック: 1回この商品を含むブログを見るときどき、2ちゃんねる…

Stalking the Black Swan: 散漫な後知恵ばかり。

Stalking the Black Swan: Research and Decision Making in a World of Extreme Volatility (Columbia Business School Publishing)作者: Kenneth A. Posner出版社/メーカー: Columbia Univ Pr発売日: 2010/02メディア: ハードカバーこの商品を含むブログを…

Naim The End of Power 査読: 目新しさに欠け提言も弱い。

The End of Power: From Boardrooms to Battlefields and Churches to States, Why Being In Charge Isn’t What It Used to Be作者: Moises Naim出版社/メーカー: Basic Books発売日: 2013/03/05メディア: ハードカバー クリック: 4回この商品を含むブログ (…

川上『圧縮された産業発展』:台湾のIT産業発展は、歴史の偶然をモノにする意志の産物だということがよくわかる。

圧縮された産業発展―台湾ノートパソコン企業の成長メカニズム―作者:川上 桃子名古屋大学出版会Amazonアセモグル&ロビンソン『国家はなぜ衰退するか』は、下巻を読んでもあまり話は変わらない。日本と中国は、19世紀から全然ちがう発展の道筋をたどった。中…

アセモグル&ロビンソン『国家はなぜ衰退するか』上巻:サクサク読めておもしろい。が、前からこの種の制度派について思っていた疑問はそのまま。

国家はなぜ衰退するのか(上):権力・繁栄・貧困の起源作者: ダロンアセモグル,ジェイムズ A ロビンソン,稲葉振一郎(解説),鬼澤忍出版社/メーカー: 早川書房発売日: 2013/06/21メディア: 単行本この商品を含むブログ (30件) を見るということで読み始めました…

ヴィッカーズ『p値とは何か』:原著はよさげなのに翻訳劣悪、さらに著者名が表紙/背表紙/奥付に書いてないってひどすぎ。

p値とは何か 統計を少しずつ理解する34章作者: Andrew J. Vickers,竹内正弘出版社/メーカー: 丸善出版発売日: 2013/01/19メディア: 単行本(ソフトカバー)購入: 1人 クリック: 50回この商品を含むブログを見るp値とは何かを中心に統計について多少漫画チッ…

アセモグル&ロビンソン『国家はなぜ衰退するのか』:アセモグルきたー! 世間的な認識は妥当なものか、実物読みましょう。

国家はなぜ衰退するのか(上):権力・繁栄・貧困の起源作者: ダロンアセモグル,ジェイムズ A ロビンソン,稲葉振一郎(解説),鬼澤忍出版社/メーカー: 早川書房発売日: 2013/06/21メディア: 単行本この商品を含むブログ (30件) を見るアセモグルきたー! です。ぼ…

バウマイスター他『Willpower:意志力の科学』:うーん、ヤル気の科学よりいいなあ。

WILLPOWER 意志力の科学作者: ロイ・バウマイスター,ジョン・ティアニー,渡会圭子出版社/メーカー: インターシフト発売日: 2013/04/22メディア: 単行本この商品を含むブログ (16件) を見る文字通り意志力の本。ダイエットしようとして萎えたり、先送りしたり…

ぶにょぶにょそん他『機械との競争』:他の説明との比較がまったくないのが不満。ブックデザインお見事。

機械との競争作者: エリック・ブリニョルフソン,アンドリュー・マカフィー,村井章子出版社/メーカー: 日経BP社発売日: 2013/02/07メディア: 単行本購入: 4人 クリック: 46回この商品を含むブログ (41件) を見るまずこの本を採り上げるなら、一応お約束なので…